住宅ローンの金利が一段と低下している。長期の固定金利型でも1%を切る例が珍しくなくなってきた。住宅ローン控除制度により減税を受ければ、利息を払ってもなお、おつりがくる状況さえ生まれている。それでも安易な借り入れには落とし穴もある。金利0%台の住宅ローンを賢く使いこなす方法を考える。
「お金を借りるほど得をするというマイナス金利の状態が本格化してきた」。住宅ローンコンサル会社MFS(東京・千代田)の中山田明社長は話す。
カラクリは年末のローン残高の1%相当(最大年40万円)が10年にわたって税額控除される住宅ローン減税にある。金利1%未満でローンを組めば、支払う利息より税額控除の方が大きくなり差額は家計に入る。一種の「マイナス金利」といえる状況にある。
全期間固定型でも
これまでローン金利が1%を下回る例は変動型や、10年以下などの一部期間固定型の商品が中心だった。将来の金利上昇リスクを負う代わりにマイナス金利の恩恵を受ける構図だったが、様相は変わった。
住宅金融支援機構が金融機関と提携して手がける「フラット35」でも条件によって金利が1%を切る例が増えている(表A)。フラット35は、最長35年の返済期間を通じて適用金利があらかじめ決まる「全期間固定型」のローンだ。
全国の金融機関が取り扱う通常タイプ(買取型)と、一部の金融機関が扱う保証型がある。後者は返済の行き詰まりに備える保険を機構が提供し、商品性を金融機関が比較的自由に設計できる。
両タイプとも金利は9月に過去最低を更新した。特に金利低下が目立つのが、融資率などで厳しい条件を求める保証型。住信SBIネット銀行は最低0.92%、ARUHIは同0.96%を提示する。
さらに省エネ性など一定基準を満たすと最長で当初10年、金利が0.25%優遇される仕組みがあり、適用を受ければ当初金利はそれぞれ0.67%、0.71%となる。通常のフラット35(買取型)でも金利を優遇後で0.86%に設定する金融機関が多い。
1%未満の固定金利ローンを用いれば理論上は減税対象の期間中、金利上昇リスクを負わずにマイナス金利の恩恵が受けられる。そのイメージを図Bに示した。3000万円を0.67%(当初10年)で借りたとしてローン減税額から支払利息を引くと、10年間で82万円の差額が得られる。11年目以降、金利は0.25%高い水準に固定される。
フラット35は、一般的な変動型ローンなどに比べて「金融機関による融資審査のハードルが低い」(中山田氏)とされる。これまで一部のネット銀行などは低い金利で融資する際、審査を厳しくする傾向があった。これに対してフラット35の場合、金融機関が融資対象の層を広げる可能性が高いという。
ローン減税の対象期間は10月以降の借り入れでは13年になる。上手に活用すれば低金利と減税のメリットを生かせるが、だからといって安易に借り入れるのは避けたい(表C)。
とりわけ気をつけたいのが減収リスクだ。減税の恩恵をすべて受け切るには10年(10月以降は13年)という長い期間がかかる。その間に「収入が減って課税対象所得が減れば、減税の恩恵は薄れかねない」とファイナンシャルプランナーの久谷真理子氏は指摘する。
急病や失業によって収入が途絶えれば最悪だ。共働きなら、それぞれの名義で2本のローンを組み(ペアローン)、ともに減税を受ける場合も要注意。出産や育児によって収入が減る可能性が現実的に高いことを頭に入れておきたい。
実際に減収になれば毎月のローン返済が厳しくなるうえ減税メリットが薄れるダブルパンチもありうる。フラット35保証型では融資率が厳しく頭金を多く用意するケースが多い。その場合、借入額自体は少なくて済むが、頭金の捻出で手元資金が乏しくなり、収入減や急な出費に対応できない恐れがある。
身の丈に合う額で
自身の収入や家計の状況にそぐわない多額の借り入れも禁物だ。ここ数年「都心部を中心にマンションなどの住宅価格は高止まりしている」(久谷氏)。つい高額の物件に目が行きがちだが、住宅市況が将来暗転する可能性は否定できない。購入した物件がもし大幅に値下がりすればいざというとき売るに売れない。
住宅ローンの金利を左右する国債利回りなどの市場金利は、景気の先行き不安などから低下傾向が続いている。金利面の恩恵は大きいものの、住宅ローンはいったん組めば、その返済負担が長期にわたり家計を縛りかねない。メリットとリスクを慎重に見比べる姿勢が今まで以上に重要になっている。
(堀大介)
[日本経済新聞朝刊2019年9月14日付]