塩レモンの次は塩カボス 刺し身に飲料にブームの兆し
魅惑のソルトワールド(33)
数年前にブームを巻き起こした「塩レモン」を覚えているだろうか。レモンを皮ごと塩で漬けて熟成・発酵させるモロッコ発とされる調味料だ。塩レモンは簡単に作ることができて、肉料理や鍋料理に加えると、適度なしょっぱさとレモンのさわやかな風味がいつでも楽しめる「あると便利な1品」だ。今回はこれに匹敵する、旬を迎えているカボスを使った「塩カボス」を紹介したい。
もちろん生のカボスそのままでもおいしいのだが、旬の時期が短く、楽しめる季節は限られる。塩カボスにしておけば、年間を通じて楽しめるようになる上、熟成・発酵させることで、生のカボスにはないうまみやまろやかさがでてくるのだ。
塩カボスの作り方はいたってシンプルだ。
まず、カボスの表面を塩でゴシゴシとこすり、汚れを取る。塩を水で洗い流してから清潔なふきんなどでふき取り、適当な大きさに切る。8等分のくし切りくらいがおすすめだが、できあがるまでに1週間くらいかかる。もっと早く使いたい場合はカボスをより細かく切ると良い。この段階で種も取り除いておくとよいだろう。切り分けたカボスは保存用のビニールバッグに入れて重さを計る。そこにカボスの重さの10%の重量の塩を加えて、バッグの口を閉じて、塩が全体に行き渡るように振る。できるだけ空気を抜いて封をしたら、そのまま冷蔵庫に入れておくだけだ。
寝かせる目安は1週間ほど。最初の数日は1日に1回もんで、カボスから吸い出された果汁が全体に行き渡るようにするとよい。1週間後にバッグをあけたら、フルーティーでさわやかなカボスの香りが際立つ、塩カボスのできあがり。冷蔵庫で保存すれば、年間を通じてカボスの風味を楽しむことができる。
なお、カボスと似た果物でスダチがある。どちらも未熟状態で収穫されて市場に出される。通年出回ってはいるが、露地栽培の旬は8月から10月で、今が最盛期だ。どちらも「酢ミカン」とも呼ばれる香酸かんきつで、比べるとスダチのほうが果皮が薄く、カボスのほうが酸味が強い。今回は酸味の強いカボスを使用したが、スダチで「塩スダチ」を作ってもおいしい。
カボスにはさまざまな香気成分が含まれており、血行を良くして身体を温めたり、心を静めてストレスを抑えたり、抗酸化作用があったりする成分が含まれるとされる。こうした成分は特に皮の外側に豊富に含まれている。
また、カボスは香りだけでなく、実は栄養価も高い。特に果皮の部分には栄養素が多く、塩カボスにすれば皮ごと使えるので、余すところなく摂取できる。まず代表的なのがビタミンCで、これも特に皮の部分に多く含まれ、抗酸化作用で体内組織の老化防止が期待されている。果肉には、筋肉疲労の原因となる乳酸を分解する働きのあるクエン酸が含まれる。胃液の分泌も促進するので、胸やけや胃痛に悩まされている人にも良さそうだ。
塩カボスを作る際には、ぜひ塩にもこだわってほしい。まろやかで優しい味わいに仕上げるためには、ナトリウムだけしか含まれない塩を使うより、マグネシウムやカリウム、カルシウムなどのミネラルも含んだ塩がおすすめだ。できあがりの味わいが格段に異なるうえ、より高い健康効果が期待される塩カボスができあがる。
ナトリウム以外のミネラルを含んだ塩は海水塩に多い。パッケージの裏側に記載されている栄養成分表示を見てみてほしい。「食塩相当量」の数値が低ければ低いほど、ナトリウム以外のミネラルが多く含まれているということだ。食塩相当量が表示されいない場合は、「ナトリウム」ないし「塩化ナトリウム」の数値を参考にするとよい。「食塩相当量」と同様に、低ければ低いほどナトリウム以外のミネラルが含まれているということになる。
もし、栄養成分表示がない場合は、ちょっとしっとりしている塩を選ぶと良い。塩がしっとりしているのは、ただの水分ではなくニガリというマグネシウムとカリウムを主体としたミネラル濃縮液によるものだからだ。手に入りやすい塩で例を挙げると、沖縄県の粟国島で生産されている「粟国の塩釜炊き」や、東京都伊豆大島の「海の精」などがある。いずれもしっとりしており、100グラム中の食塩相当量が「粟国の塩釜炊き」で71.7グラム、「海の精」で85.8グラムと、一般的な自然塩に比べてかなり低めになっている。
逆にしっかりしたしょっぱさを残したい人は、「食塩」や、食塩相当量の高い岩塩などを使用すると、パンチのある塩気が残った塩カボスができあがる。
塩カボスができあがったら、みじん切りまたはペースト状にして保管しておくと、使う時に刻んだりする手間が省けるので便利だ。野菜、肉、魚、ご飯、豆腐など、幅広い料理に使うことができる。
もっとも簡単に塩カボスを楽しむことができるのは、野菜の浅漬けだ。キュウリや白菜、カブや大根などを適当な大きさに切って袋に入れ、塩カボスを加えてもんでしばらくおいておくだけで、箸休めにぴったりなおいしい浅漬けができあがる。オイルとの相性も抜群なので、イカや白身魚の刺し身を皿に並べて、そこにオリーブオイルと塩カボスを混ぜたものをかけるだけで、和風カルパッチョができあがる。秋から冬にかけておいしい季節を迎えるカキにちょっとのせるのもおすすめだ。
肉料理であれば、鶏肉や豚肉との相性が非常に良いので、焼いた肉に塩カボスをつけて食べたり、さっぱりとさせたければ大根おろしと塩カボスを混ぜて肉の上にのせたりしてもおいしい。
鍋料理の時に少し加えると、ダシに溶ける時にふわっとカボスの香りが広がり、さらに食欲を増してくれる。鍋に豚肉と白菜を交互に並べて、少量の水と日本酒を入れて蓋をして加熱し、そこに塩カボスを加えると、シンプルだが最高においしい。冷ややっこや湯豆腐にちょこんとのせても良いし、納豆に混ぜるのもおすすめだ。
また、料理だけでなく、ドリンクにも使えるのが塩カボスの良いところだ。おすすめは「塩カボスはちみつ茶」。マグカップにはちみつ、塩カボスを入れて、湯で溶かすだけでできあがる。カボスも塩もはちみつも身体を温める作用があるので、クーラーなどで冷えてしまった身体を温めるのにふさわしい。残暑の厳しい日中であれば、冷たく冷やしたサイダーに混ぜて「塩カボスサイダー」として楽しむのも良い。
塩カボスは時間の経過とともに色や味わいが徐々に変化していく。「手塩にかけて」育てる感覚を楽しめるのも、塩カボスのよいところなので、ぜひ自家製塩カボスづくりに挑戦してみてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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