筋肉体操・谷本道哉さん プライベートは20分筋トレ
筋トレ研究者・谷本道哉さんに聞く(下)
筋肉隆々の男性たちがただひたすら筋トレをするNHKの5分間番組『みんなで筋肉体操』で、「筋肉は裏切らない!」などの声掛けが印象的な筋トレ研究者の谷本道哉さん。2019年9月には、『みんなで筋肉体操語録 ~あと5秒しかできません!~』(日経BP)をはじめ関連著書が複数発売されるなど、筋肉ブームはまだまだ続きそうだ。シリーズ第3回は、そんな谷本さんの普段の健康管理などについて聞いた(第1回は「筋肉体操・谷本道哉さん 筋トレ三昧、最高の研究生活」、第2回は「筋肉体操・谷本さん 『キツくてもツラくない』筋トレ」)。
――筋トレについてさまざまな研究を続けていらっしゃいますが、現在はどんな研究をされているのでしょうか。
谷本 いくつかのテーマを進めていますが、一つは、腕立て伏せをする時の手幅の取り方で、効果がどのように変わるのかを力学、生理学指標から分析しています。ほとんどの人は、腕立て伏せではまっすぐ真下に床を押していると思っています。でも、実際はまっすぐ真下に床を押してはいません。手幅によって床を押す方向は変わります。手幅が広ければやや外向きに、狭ければやや内向きに押しています。
NHK『みんなで筋肉体操』では、こういった知見に基づいて理想的なフォームを追求しています。条件設定や分析項目、データのサンプル数を増やして、より詳細に検証しているところです。それをどんどん論文にまとめていかないといけないんですけどね。
通勤時は自転車で持久運動
――谷本さん自身、普段はどのように体を動かしていますか。
谷本 僕自身が健康でないと説得力がありませんし(笑)、健康オタクでもあるので(笑)、運動や食事には自然に気をつけています。筋トレはもちろんですが、持久運動もしますよ。もともと持久運動は好きではなかったのですが、「筋トレで動脈が硬くなることもある」という研究と関わった国立健康・栄養研究所にいた時から、持久運動も始めました(第1回「筋肉体操・谷本道哉さん 筋トレ三昧、最高の研究生活」)。今は、通勤でロードバイクに乗っています。
――持久運動といってもランニングや水泳などさまざまですが、ロードバイクを選んだ理由は?
ランニングはそれほど好きではないし、水泳はプールに通わなければいけない。ロードバイクなら通勤で乗るので、僕にとって一番続けやすい運動だと思いました。こぎ方次第で筋トレにもなりますしね。脚が太くなりますよ。
家から大学までは片道5キロほどで、アップダウンが激しく、なかなかに運動として「ちょうどいいコース」なんです。行きに長い上り坂があるので、そこでインターバルダッシュをします。息も切れますし、ももとお尻がパンパンになります。大学に着く頃には脚がガクガクですが、それが気持ちいいんです。キツくてもツラくない! キツいから楽しい! 結構ハードな坂道なので、さすがに毎日では脚が持ちません。ロードバイクに乗らない日は、電動アシスト付きの自転車で通勤します。
筋トレの内容を3つに分け、それぞれ週2回
――筋トレはどのようなルーティンでされていますか?
谷本 忙しいのもありますが、量より質派なので超短時間集中で行います。週5回、基本的に1回の筋トレは20分と決めてタイマーで計りながらやっています。「あと20分しかできません」という状態にしてから始めるんです。この20分で標的部位を追い込み切ります。毎回真っ白な灰に燃え尽きていますよ。内容はいろいろ変えていますが、例えば、次のような感じで行っています。
【火】懸垂など主に引く種目(B)
【水】スクワットなど主に脚の種目(C)
【木】オフ
【金】月とほぼ同じ(A)
【土】火水とほぼ同じ(B)と(C) ※この日だけは40~50分行う
【日】オフ
土曜のみジムで、他は大学の実験室の隅で測定用のバーベル・ダンベルを使って行います。自重種目も行いますよ。筋トレの内容(部位)をA、B、Cと3つに分け、それぞれを週2回行います。
――負荷ややり方は?
谷本 昔はとにかく重いものを上げたいという思いが強く、ベンチプレスなら140kg、バックプレスは100kg、でセットを組んでいました。そこまで重いものを持たなくても、筋肉に強い刺激を与えることはできるのですが……。若気の至りですね。
今はあちこちの関節が悪いのもあって、それほど高重量では行いません。例えば、スクワットを片脚で、丁寧なフォームでしっかり深くしゃがみ込んで行えば、自重でも相当に筋肉に強い刺激を与えられます。重りを持つとしても10~20kgで十分です。比較的軽めの重量で筋肉に強い刺激を与えられることも、筋トレの効率の良さといえます。昔の自分に教えてあげたいです(苦笑)。
このように、関節にかかる負担を極力大きくせずに、筋肉には強い刺激がかかるような方法を心がけています。ただし、負荷ややり方がどう変わろうとも、限界まで追い込み切るという大原則は変わらないですけどね。
――筋トレを継続させるためのポイントは?
谷本 そこに楽しみを見いだすことかなと思います。継続するためには、自分が楽しいと思えることが一番大事ですから。僕はそもそも筋トレ自体が楽しいので、どうすれば楽しみを見いだせるか?と聞かれても困るんですが(苦笑)。
楽しみを見いだせる一つの例としては、パンプアップの気持ちよさにハマることが挙げられます。筋肉を追い込むと乳酸などの蓄積で筋肉が一時的にパンパンに水膨れを起こします。これをパンプアップと言いますが、ここに「快楽」を感じる人は結構います。ランナーズハイのような状態になるんです。
いろんな種目を試してみることも楽しみになると思います。『みんなで筋肉体操』では、シーズン3まで来て、それなりに多くの種目を紹介してきました。ここからいろいろな種目を選んで試してみてください。お気に入りの種目が見つかれば、キツくても楽しいと感じられるでしょう。
なお、筋肉体操ではレベルダウンの方法も紹介しているので、筋力に自身のない人、高齢者の方でも取り組めます。女性もバンバン取り組んでください。もちろん、女性でも筋力に自信がある人は、レベルダウンする必要はありません。がっつりハードに取り組んで、筋肉の喜ぶ声を聞いてください。
(文 高島三幸、インタビュー写真 鈴木愛子)
近畿大学生物理工学部人間環境デザイン工学科准教授。1972年静岡県生まれ。大阪大学工学部卒。パシフィックコンサルタンツでトンネル設備設計に従事後、東京大学大学院総合文化研究科修士課程・博士課程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所特別研究員、順天堂大学博士研究員などを経て現職。専門は筋生理学、身体運動科学。『みんなで筋肉体操』(NHK)などで運動の効果を分かりやすく解説。新著に『みんなで筋肉体操語録~あと5秒しかできません!~』(日経BP)など。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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