疲れた人が集まる東京駅 爆売れする人生の指南書とは
マルノウチリーディングスタイル
東京駅のすぐ隣にある商業ビル内のブックカフェで、人生をラクに生きるための指南書『しないことリスト』(pha著、大和書房)が爆発的に売れている。1年前の出版時から店頭で熱心にアピールしてきた、同店"イチオシ"の一冊だ。「TO DO LIST(やることリスト)」に追われるような慌ただしい日常から自由になれる感覚が、少し疲れ気味のビジネスパーソンの心に刺さったようだ。
10カ月で1400冊が売れた
著者のpha氏は「日本一有名なニート」と呼ばれるブロガーで、京都大学総合人間学部を卒業したあと25歳で就職。28歳で会社をやめたあとは、ふらふらしながら暮らしている。シェアハウス「ギークハウスプロジェクト」の発起人で、『人生にゆとりを生み出す 知の整理術』(大和書房)『ひきこもらない』(幻冬舎)などの著作がある。
今の世の中には無数の、『しなきゃいけないこと』があふれている――。冒頭でこう指摘するpha氏は「いわゆる『しなきゃいけないこと』の99%は『本当は別にしなくてもいいこと』だ」と読者に訴える。「あれもこれもしなくてもいいんだ。人生ってもっとラクに生きていけるんだよ」とシンプルなメッセージがこの本から伝わってくる。
文庫版の刊行は2018年9月。マルノウチリーディングスタイルでは、その2カ月後から毎月コンスタントに150~200冊のペースで売れ続けている。19年7月までの累計販売部数は1465冊。1店舗としては2位の大型書店(大阪市)が売った314冊を大幅に上回る。大手ネット書店でも同時期の販売数は730冊にとどまっている。
本に記された「しないことリスト」は全部で36項目。それぞれが格言風に、短い言葉で記されている。
LIST 2 お金で解決しない
……
LIST 17 土日を特別視しない
LIST 18 1カ所にとどまらない
……
LIST 22 つながりすぎない
LIST 23 予定を守らない
……
項目ごとに、とてもわかりやすい文章で数ページのコメントが付いている。「ユルく、ラクに生きる達人」の言葉は、いずれも説得力に富む。例えば「土日を特別視しない」とはどういう意味だろうか?
「世界の半分しか知らない」会社員
土日が休みの会社員をやっていると、平日の昼間に自分が住んでいる町がどんな雰囲気なのかを、あまり知らない。平日の昼間は、銭湯でもファミレスでも公園でも人が少なくてすいている。著者自身、会社員をやめて良かったことの一つが平日の昼にぶらぶらできることだという。その意味で一般的な会社員は「世界の半分しかしらないようなもの」なのだ。ほんの少し発想を変えるだけで、もっとラクに生きられるはずだというのが著者のメッセージなのである。
同書店スタッフの長江貴士氏は「『しないこと』というタイトルに引かれて、疲れている人が手に取ってくれるようです」という。9月25日には『しないことリスト』の1000冊突破記念と銘打って、著者のpha氏と長江氏が店内のカフェでトークイベントを開く予定だ(イベント概要はこちら>>)。
長江氏自身、大学中退後に「ひきこもり」の経験がある。フリーター生活の後、2015年に岩手県盛岡市にある「さわや書店」に就職。その後、今の会社に転職した。7月には『このままなんとなく、あとウン十年も生きるなんて マジ絶望』(秀和システム)という本を出版した。
落ち着いた雰囲気のカフェを併設していることもあり来店客の6割程度を女性が占めるマルノウチリーディングスタイル。コンセプトとして「働くを楽しく、働くを新しく」を打ち出している。日本を代表するオフィス街に立地するだけにビジネス需要は十分意識しているものの、「スキル」や「学習」に加えて、生き方やライフスタイルに関する書籍も積極的に発信している。
「まず本に親しみを持ってもらうことを一番に狙っています。分厚い書籍や文字が細かい本は敬遠されがちなので、読みやすい文庫本の品ぞろえに力を入れています」(長江氏)
「話すチカラ」の指南書が3位
同書店のビジネス書ランキング(2019年9月2日~8日)を見ると150ページ前後の薄手の文庫本が上位に並んだ。3位は『話すチカラをつくる本』で、「おとなの小論文教室。」が知られる山田ズーニー氏による話し方の指南書だ。4位が「猫の写真を飾ると生産性が44%アップする」など日常生活のちょっとした行動でメンタルリズムを変えるためのヒントを満載した『あなたを変える52の心理ルール』。「くまモン」生みの親としても知られるトップクリエーターがポジティブ発想を説いた『明日は心でできている』が5位だった。1位は売れ続けている『しないことリスト』。『農業大国アメリカで広がる「小さな農業」』が、店舗内カフェで出版記念イベントを行ったため2位となっている。
(若杉敏也)
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