野生のイルカが赤ちゃんクジラを3年間子育て 授乳も
ハンドウイルカの母親は子煩悩だ。授乳し、守り、一緒に遊びながら、長いときは6年もかけて育てる。
このほど、野生のイルカがクジラの子どもを育てるという、知られている限り初の例が、最新の研究で明らかになった。観察結果は2019年6月25日付けで学術誌「Ethology」オンライン版に報告された。
2014年、仏領ポリネシア沿岸海域で、ハンドウイルカの母親が、見慣れない姿をした幼いオスを世話しているのを研究者たちが発見。母親自身の子と思われるイルカも一緒だった。
ハンドウイルカなら口吻がほっそりしているが、生後1カ月とみられる謎の子どもは口吻が短く、鋭くもなかった。やがて、みなしごの正体はゴンドウクジラの仲間、カズハゴンドウだと科学者たちが特定。種も属も別の動物だった。
「こんなまれな現象を目撃できて、本当に興奮しました」。研究結果をまとめた論文の筆頭著者、パメラ・カーゾン氏はそう話す。カーゾン氏は仏領ポリネシア、ティピュタに本部を置くポリネシア海洋哺乳類研究会(GEMM)に所属している。
野生動物が血のつながらない子どもを育てることは珍しく、あってもたいていは同じ種で、血縁的に近い関係で起こる。ほかに、属も種も違う孤児の世話をするのが学術的に記録されたのは、オマキザルの集団がマーモセットの赤ちゃんを世話していた2006年の例しかない。この事例を観察したブラジル、サンパウロ大学の霊長類学者パトリシア・イザー氏は「絶句するほど驚きました」と振り返る。
イザー氏は今回の研究に関わっていないが、「動物の世界での『養子』を世話する行為に、科学者たちは関心を寄せています。かつては人間独自の行動だと考えられていたからです」と話している。
「カズハゴンドウは、ハンドウイルカたちとまったく同じように振る舞っていました」と、カーゾン氏は話す。例えば、ハンドウイルカの子どもたちと決まって行動を共にし、彼らの大好きな遊びにまで加わって、波の中で泳いだり、波に飛び込んだりしていた。
カズハゴンドウはハンドウイルカの一家に加わり、同じように振る舞おうという決意が、うまく受け入れられる上で重要な役割を果たしたと研究者たちは考えている。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年8月1日付記事を再構成]
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