働き方をオーダーメード 子育てと両立、仕事は充実

2019/9/17

平山さんや岸さんのように企業が働き手に「特例」を認めるのは、人材をつなぎ留める目的があるようだ。ただ、働き方に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の坂爪洋美教授は「制度外の働き方ができる業務なら切り替え可能」といった単純な図式は成立しないとみている。導入には「仕事内容だけでなく、対象者の実力が伴うかどうかをよく見極める必要がある」と指摘する。

働く場所や時間などを管理するのをそもそも取りやめた企業もある。「オーディオブック」と呼ばれる書籍の音声サービスを提供するオトバンク(東京・文京)だ。

経理や経営企画を担当する社員を除いて自宅など社外での勤務を推奨しており、社員は好みの場所で働ける。定時がないため“遅刻”もない。ラッシュ時の移動を伴う出社を禁止するほどだ。

オトバンクCTOの佐藤さんは北海道の自宅で勤務する

同社でCTO(最高技術責任者)を務める佐藤佳祐さん(32)は19年、埼玉県から出身地に近い北海道釧路市に家族と移住した。会議などで毎月1週間ほど東京に赴く以外、釧路の自宅で仕事をする。「北海道に移ったことによる業務上の変化も弊害もない。関東より涼しくて過ごしやすいですよ」と笑顔を見せる。

通勤の疲労など社員のストレスを取り除くことで本来の業務に集中し、思考の幅を広げてもらうのが同社のねらいだ。根底には「社員の自主性にすべてを委ねる」という久保田裕也社長のスタンスがあるという。

進捗は把握するが管理しないという方針にひかれた優秀な人材がおのずと集まる。エンジニアの獲得競争が激化するなか、採用には困っていないという。

佐藤さんの「2拠点勤務」は好例となり、入社から間もなく西日本からリモート勤務する予定のエンジニアもいるが「何も問題になっていない。当人にとって良い環境で働いてもらうことは、よりよいサービスづくりにつながる」と久保田社長は強調する。

■信頼関係が前提 ~取材を終えて~
エムティーアイには岸夏帆さんの他に病気などを理由に「特例」で社外からのリモート勤務をする社員がいる。人手不足感が広がるなか、離職を防ぐための特例の導入は今後増えそうだ。一方で、制度外の働き方をする社員が既にいるものの、公表していない企業もある。他の社員が「特別扱い」と受け止めて不公平感を抱くのを懸念しているという。
特例をうまく運用するには当事者の協力も不可欠だ。岸さんが関西に居ながら働けるのは、「開発メンバーとの信頼関係がすでに構築できていたのも大きい」(小出誠人事部長)。入社3年目の部下を指導するネオキャリアの平山希さんは「部下と過ごす時間は他の上司より短いが、その分愛情を持って育てている」。多様な働き方は信頼関係に根差すのだと実感した。
(杉山麻衣子)
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