英国ロイヤル・オペラ、仏伊二大悲劇に浸る日本公演

今回のもう一つの演目はやはりイタリアオペラの代名詞、ヴェルディの作品だ。4年前の「マクベス」に続き、今回もシェイクスピアの戯曲を原作とした「オテロ」。14日、神奈川県民ホールから上演が始まる。パッパーノ氏に「オテロ」の見どころと、自身の今後の抱負、オペラ文化の展望についても聞いた。

――「オテロ」で日本の聴衆に伝えたいことは何か。

「今回の演出は2017年と、比較的新しい。『ファウスト』とは正反対で、華美な装飾はなく、登場人物をいかに描くかが全てだ。抽象的な部分もあるが、非常に力強く人間の持つ闇を表現している。シェイクスピアの原作のメッセージが凝縮されたような舞台になっている」

非日常の空間でどっぷり漬かるオペラ

――指揮者、音楽監督として自身の今後の方向性と目標は。

「とにかく劇場が好きで、歌と歌手が好きなので、オペラの舞台を作り続けたい。新しいことにどんどんチャレンジしたいというよりは、かつて取り組んだ演目をもう一度やってみたい、今ならよりいいものができるのではないか、と思うことのほうが多い。オペラの魅力は、舞台にあふれる情熱だ。これはほかの芸術表現にはない、オペラ特有のものだ。人の情感を伝えるのだから、予備知識のない人でも共感できるし、知識を得て見直すとまた新たな魅力を発見できる、深みのある舞台芸術だ。最近は音楽や映像に触れるのもスマホの画面を介することが多く、短時間で気が散ってしまいがちだが、自分だけの世界に入り込めるのがオペラだ。日常とは切り離された空間でどっぷりオペラの世界に浸ってほしい」

ヴェルディ作曲オペラ「オテロ」の一場面(提供:英国ロイヤル・オペラ、NBS)

――日本でもオペラファンの高齢化と若者のオペラ離れがいわれているが、オペラ文化の将来をどうみているか。

「より若い人たちに見に来てほしいのはオペラ界共通の課題。手ごろな座席を設けるなど、どこも必死に対策を打っている。ただ、焦りすぎているのかもしれない。人がオペラを見ようと思うのは、少し年齢を重ねてからのことが多いのではないか。仕事や子育てが一段落して、心に余裕ができたときではないか。ただ、そう思ってもらうためには子供の時分から何らかの形でクラシック音楽に触れる機会を作ることが重要で、政府にも理解と支援を絶えず求めている。音楽が脳の発達に大きな影響を及ぼし、創造的な人間を育てるのに欠かせないのは揺るぎない事実だ。辛抱強く、若い人たちが音楽とかかわる機会を作っていくことしかない」

豪華な舞台で繰り広げられるドラマ、それを推進する緻密な構成力の音楽。パッパーノ氏の非凡な音楽性が求心力となり、世界最高クラスの歌手陣が集まった。「ファウスト」のグリゴーロ氏やダルカンジェロ氏、「オテロ」デズデモナ役のソプラノ、フラチュヒ・バセンツ氏らが、激しくも複雑な悲劇をどう歌い上げるか。今秋最も注目のオペラ公演になりそうだ。

(槍田真希子、池上輝彦)

【英国ロイヤル・オペラ2019年日本公演】
・グノー作曲「ファウスト」=東京文化会館で9月12、15、18日、神奈川県民ホールで同22日
・ヴェルディ作曲「オテロ」=神奈川県民ホールで9月14、16日、東京文化会館で同21、23日
(アントニオ・パッパーノ指揮ロイヤル・オペラハウス管弦楽団、ロイヤル・オペラ合唱団)
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