英国ロイヤル・オペラ、仏伊二大悲劇に浸る日本公演

――今回はどんな日本公演にしたいか。

「日本公演ではできるだけ対照的な作品を選んでいる。オペラ表現の幅広さを実感してもらいたいからだ。劇中でバレエも披露する豪華なグランドオペラ形式の『ファウスト』と、イタリアオペラの頂点ともいえる『オテロ』は、音楽的にかなりかけ離れた2作品だ。日本のオペラファンは舞台に大変集中してくれるので、出演者も実力を発揮しやすい。知識も豊富で質の高い舞台を理解してくれるので、非常にやりがいがある」

グノー作曲オペラ「ファウスト」で、ファウスト役のテノール、ヴィットリオ・グリゴーロ氏(提供:英国ロイヤル・オペラ、NBS)

――グノー「ファウスト」の見どころは。

「デイヴィッド・マクヴィカー氏の演出として2004年に初演して以来、2度目の指揮になるが、大変人気のある大好きな演目だ。とてもフランスらしい作品で、音楽の流れを非常に大切にし、歌手の魅力が引き立つ構成だ。それだけに、実力のあるキャストが欠かせない。バレエあり、笑いあり、悪魔も登場し、誰でも楽しめる作品だ」

美しい旋律と劇的盛り上がりの「ファウスト」

日本公演は12日、東京文化会館での「ファウスト」から始まる。9日には同ホールで「ファウスト」の最終舞台稽古が行われた。第4幕ではファウストの子供を身ごもったマルグリート(ソプラノのレイチェル・ウィリス・ソレンセン氏)が情感あふれる祈りの歌を披露する中、悪魔メフィストフェレス役のバス・バリトン、イルデブランド・ダルカンジェロ氏が張りのある歌声でシャープな悪党ぶりを演じていた。

パッパーノ氏の指揮によるロイヤル・オペラハウス管弦楽団の響きは、美しい旋律を叙情たっぷりに歌わせたかと思うと、劇的な場面では精巧に音を積み重ねて思い切り盛り上げるなど、メリハリの効いた表現だ。ゴシック風の古風な舞台も実は現代人の趣向に通じる面が多い。出演者は今回の「ファウスト」や英国ロイヤル・オペラでの活動をどう考えているか。主役のファウストを演じるテノール、ヴィットリオ・グリゴーロ氏に聞いた。

――テノールにとって「ファウスト」はどんな作品か。

「非常に難しい、最も難しい役の一つかもしれない。冒頭では老人に扮(ふん)し、老人のように歩き、呼吸し、歌もしゃがれた声で精気なく歌わなくてはならない。ところがある瞬間から、エネルギッシュな若者に変身し、歌もはつらつ。その極端に違う人間を演じ分けるのがポイントだ。音域も高音から低音まで幅広く、誰にでも歌えるものではない。私自身もこの役を歌うのは今回が最後かもしれないと思っている」

ファウスト役のテノール、ヴィットリオ・グリゴーロ氏(9月6日、東京都港区でのインタビュー)

――英国ロイヤル・オペラは自身の歌手活動の場としてどんなところか。

「自分にとって特別なオペラハウスで、2010年以来、頻繁にともに仕事をしてきた素晴らしい家族だ。あまり海外公演を行わないオペラハウスなので、今回の日本公演は貴重だ。私は常に『今』取り組んでいることが一番重要な目標と考えている。夢を見るのは誰もができるし、大きな夢を持つのはいいが、今できることに全力を注ぐことが、次の未来につながっていくと信じている」

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