資産形成のプロ 低利でも退職金で住宅ローン返す理由

日経マネー

ほんのちょっとの差のように映るかもしれませんが、これが2年、3年と繰り返されていくと大きな違いになっていきます。平均運用収益率は同じでも、毎月の運用収益率の並び方を予測できない限り、定額の引き出しを続けていると、想定以上に運用元本の毀損が起きることがあり得るわけです。これを専門的には「収益率配列のリスク」といいます。

多少言い方に誇張があるかもしれませんが、簡単に言えば10万円の引き出しは「10万円しか引き出していない」時もあれば、相場が下落している時には「10万円も引き出している」という場合もあるということです。これは、安定的な分配金を求めて毎月分配型投資信託で運用するのと、同じリスクを抱えていることになります。

勤労収入が少なくなった段階で、資産運用しながら住宅ローンを返済することには、このような危険性があります。「資産運用の収益率が住宅ローンの金利より大きい」としても、それは年間平均のことで月ごとでは必ずしも当てはまらないのです。ここでは平均での収益率が、それぞれの期間設定の違いを意識しないままに強調されてしまっているように思います。

もちろん退職しても毎月決まった収入が入ってくる場合には、それを返済に充当している限り、「収益率配列のリスク」を恐れることはありません。変動する資産運用の収益を固定的な支出、例えば住宅ローンの返済に充てようというのでなければ、退職後も負債を抱えていることに、この点での課題はないでしょう。

野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長、フィンウェル研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信に入社。07年からフィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年にフィンウェル研究所を立ち上げ「複業」をスタート。アンケート調査を基にしたお金に関する著書・講演多数

[日経マネー2019年10月号の記事を再構成]

日経マネー 2019年 10 月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)


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