ヘビなのワニなの?それパンダ!生物の似せる生存戦略
動物が現在の姿に進化したのには、さまざまな理由がある。求愛のためだったり、ライバルを威嚇するためだったり、カムフラージュや体温調節、捕食者を追い払うためだったりもする。
近縁の動物になりすまして敵から身を守る動物もいれば、ヒョウとカニというまったく別種の生物なのに、色や模様がそっくりに進化するものもいる。なぜか似てしまった動物たちを紹介しよう。
パンダのようでもアリにも見えるハチ
白黒のもふもふな姿から、英語でPanda Ant(パンダアリ)と呼ばれるこの昆虫。実は南米チリに生息するハチだ。アリバチと呼ばれるグループの1種で、なぜかチリから遠く離れた中国の人気者ジャイアントパンダに似ている。
アリのように見えるのは主にメスだと、南アフリカ、クワズール・ナタール大学のデニス・J・ブラザーズ氏は言う。その印象的な模様は、「強烈な針を持っているぞ」という捕食者への警告なのかもしれない。
一方、オスには針がなく、いわゆるハチらしい姿だと、米アリゾナ大学の昆虫学者ジャスティン・シュミット氏は言う。
ヘビに化けるイモムシ
スズメガの一種Hemeroplanes triptolemusの幼虫は、猛毒のクサリヘビになりすまして捕食者を追い払う。危険が迫ると、足を引っ込め体の前部を膨らませ、弱々しいイモムシから恐ろしいヘビに早変わりする。
しかし、この技が見られる期間は短い。イモムシでいる間の30日のうち脱皮する数日しか、ヘビに変身できないからだ。
ハチに似たアブ
「誰もマルハナバチには手を出しません」と米アリゾナ大学の昆虫学者ケイティ・プルディック氏。だからツリアブは、マルハナバチそっくりに進化したようだ。毛むくじゃらのハチっぽいその姿は、捕食者を避けるのに役立つ。彼らはアブは追いかけても、ハチを攻撃することはためらうからだ。
ツリアブのメスは、アナバチなど別の生物の巣に忍び込み、卵を産み付ける。産卵管から卵を巣に投げ入れる様子は、まるでテニスのサーブのようだとプルディック氏は言う。「セリーナ・ウィリアムズも顔負けの正確さです」。卵がかえると、ツリアブの赤ちゃんは巣の中に蓄えられた花粉やハチの赤ちゃんも食べてしまう。
ワニ頭の昆虫
ワニのような頭をもつ昆虫ユカタンビワハゴロモの英名はpeanut-head bug、「ピーナッツ頭の虫」という意味だ。中空の大きな頭は、たしかにピーナッツっぽくも、ワニの頭のようにも見える。鳥などの捕食者にとっては、この頭が爬虫類に見えて、食欲をそがれるのかもしれない。
ユカタンビワハゴロモには、この独特な頭のほかにも、羽を広げると目のような模様があり、より大きな動物に見せかけることもできる。さらに、これらすべての威嚇が失敗しても、スカンクのように悪臭を放ち、諦めの悪い捕食者を撃退する。
ヒョウ柄のカニ
キャリコ・クラブは、ヒョウ柄の模様をもつカニ。この模様のねらいはヒョウと同じで、周りから目立たないことだと、米カリフォルニア大学デービス校の海洋生態学者ジェイ・スタコビッチ氏は言う。
迷彩柄の服を着た人が動いていても目立たないのと同じ原理だと同氏は言う。さまざまな色が入り混じった背景に対して、単色無地のものが動くと目立つが、迷彩なら見つかりにくい。
キャリコ・クラブの場合、通常、体の一部を砂に埋めているので、無地のカニに比べ捕食者に見つかりにくい。
カニ爪をもつカブトムシ
最大のカブトムシ、ヘラクレスオオカブトがカニ爪のような角を生やすのには、十分な理由がある。2014年に学術誌「PLOS ONE」に掲載された論文によると、「爪」は戦い方に合わせて進化してきたという。メスを巡って争う際、角を使ってライバルをはさみ、持ち上げるのだ。
毒ヘビそっくりの毒なしヘビ
毒のないスカーレットキングヘビは、毒を持つサンゴヘビにそっくりで、その外見は捕食者を遠ざけるのに役立つ。
(文 LIZ LANGLEY、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2019年8月19日付記事を再構成]
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