■「こんなの売れない」と言われた瞬間「これは勝てる」

「実はそのときまで私はゴルフをプレーしたことがありませんでした。サーファーの私にとってゴルフは堅苦しいイメージだったんです。07年にブランドを立ち上げた時点では、本来のゴルフユーザーの目線で商品を見ることはなく、キャディーバッグにスタッズ(鋲)を付けたり、ベルトをくさりにしたりなんて調子でした。重くて大変でした(笑)。ウエアではクジャクの羽が付いたニットや幼稚園児が着るスモックの形をそのまま生かしてワンピースにしたものもありました」

カラフルなウエアは機能性素材、裁断、縫製にこだわった。わきの下にスカルの刺しゅうが施され、スイングすると顔を出すといった遊びも

「アメリカで最初に展示会をやったときにはかなり驚かれて最高にウケました。テーマは『Golf or die(ゴルフか、死か)』、それも響いたようで売れに売れて、自分でも驚きましたよ。ゴルフ場もウエアも市場全体はいまだに前時代的です。でも、そうした中でユーザーが求めていたモノは私が作ったモノだったんだ、ということが分かりました」

――それから日本でも売り出し、08年にマークアンドロナとしてリブランディングをしたのですね。

「ゴルフウエア売り場にはたくさんのブランドがありましたが、当時は新しさを打ち出すウエアがなかったんでしょう。ある取引先に営業に行くと、こんなのは売れない、と言われました。先方はオーソドックスなポロシャツなどを求めていたけれど、私が持っていったのは夏物で(起毛素材の)ベロアの上下ですからね。その瞬間に、これは勝てる、と。この市場は周回遅れでトレンドはないなと気づき、お客さんさえ喜んでくれればいいんだと確信しました」

――高級時計ウブロと組んだファッションショーをしたり、スターウォーズとのコラボ商品を出したりと、発信の仕方も独特です。

「日本で最初に扱ってくれたのはルイ・ヴィトングループの高級会員制サロン、セリュックス(現在は閉鎖)でそこから火が付きました。高級ブランドのイメージもあって、ラブレスやトゥモローランドといった人気セレクトショップに入り、何を作っても売れました。今でも銀座のGINZA SIXや六本木ヒルズなどのブティック販売を基本にしています」

「お父さんブランドといえるメジャーなブランドの支持層とは全く違う、ラグジュアリーニッチを狙っています。30代から上の富裕層、会社経営者といった高級感を求めている人たち向けに作っています。ポロシャツが2万~3万円、高いラインでは5万円。ファッションを重視しているため大手アパレルにはまねできない、びっくりするような相手とのコラボにも積極的に取り組んでいます」

ラグジュアリーニッチ層を狙うマークアンドロナ。新しいポロシャツが発売されると全色を購入する富裕層もめずらしくないという

――プレー人口は減少しており、若年層でもゴルフへの関心はそう強くありません。これだけ売れた理由は何ですか。

「ユーザーはファッション性の高いウエアに飢えていたんです。当時、ハイエンドな視点で作られた商品は市場に見当たりませんでしたから。立ち上げた時期に女子プロブームが起きて、ファッションを扱うおしゃれなゴルフ雑誌が登場したことも追い風になりました。男性誌はスカルモチーフに興味を持ってくれて、一気に認知度が高まりました。ユーザーも交流サイト(SNS)でブランドを拡散してくれたんです。派手なウエアの女子は目立つので、男性のフォロワーも大勢つきます。うちもイメージ戦略を重視して、ウェブサイトは凝ったデザインにしています」

■百貨店はユーザー目線ではなくゴルフフロア目線

――素材にもかなり力を入れているそうですね。

「スーツやスポーツウエアの開発をしていた経験を踏まえ、上質な自社開発素材を作り、80%以上のアイテムに採用しています。着心地のいい機能性素材をぜいたくに使っています。こだわっているのはポロシャツの二重になった襟などリブの部分。きれいに襟が立ちますし、洗濯による劣化も少ない。スイングしたときにわきの下の刺しゅうが見えるといった細部のこだわりもあります。普段から高級ブランドを着ている富裕層は、ウエアの素材に敏感です。ゴルフ場はハレの場ですから、いいブランドに投資したい人は多いのです」

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