各組の応援席には「アーチ」と呼ばれる巨大な壁画が掲げられ、チームカラーをアピールする。「エール」と呼ばれる応援歌も、組ごとに生徒たちが作詞・作曲する。アーチとエールのできばえも、来場者の投票で審査される。

チームのひとり一人が自分に課された作戦上の役割を100%果たすことが求められ、負けて号泣、勝っても号泣の真剣勝負が繰り広げられる。競技後の様子は、まるで部活の引退試合のあとのようでもある。
当日の熱狂は、実は「開成の運動会」の氷山の一角に過ぎない。本質は当日以外の364日にあるといっても過言ではない。次年度の運動会に向けた準備がすぐに始まるからだ。核となるのが「運動会審議会」「審判団」「運動会準備委員会」の3つの組織だ。それぞれ立法、司法、行政のような役割で、準備委員会の委員長は生徒の選挙で決まる。
1年かけて中高合わせて2100人もの生徒一人ひとりに役割が与えられ、それぞれに個性を発揮しながら、一丸となっていく。それを毎年くり返す。まるで巨大な有機体が、新陳代謝をくり返すかのように。
そのダイナミズムこそ開成の運動会の本質であり、だからこそ開成の運動会は進化し続けているわけである。その躍動は文字では伝えられない。先輩から後輩へと生身の身体を通じて継承される無形の財産なのだ。
「仮に3年間、運動会を実施できなくなったら、この文化は途絶えるでしょうね」というのは清水哲男教諭。創立150周年記念事業では、グラウンドに新校舎を建てる案も出たが、運動会ができなくなるのはあり得ないという判断から早々に消えたという。
柳沢幸雄校長は、開成を「個人としてだけでなく、集団のなかでたくましさを発揮できる大人に育つ学校」と説明する。運動会を見学するときには競技中の選手だけでなく、審判団や衛生係、その他の運営スタッフの活躍にも目を向けてほしい。そうすれば、柳沢校長の言葉の意味が分かるはずだ。
創立は1871年。1982年以来38年連続で高校別東大合格者数首位にある。高校の1学年は約400人。2019年の東大合格者数は186人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数は、19年まで5年間の平均で238.2人とこちらも首位。卒業生には、衆院議員の岸田文雄氏、マネックス証券の松本大氏、演劇家の蜷川幸雄氏らがいる。