ある研究によると、週55~60時間以上(月時間外労働時間に換算すると60~80時間)の長時間労働は脳・心臓疾患のリスクを2~3倍に増大させるといいます。また、別の研究では、長時間労働が心臓血管系の負担を増大させ、血圧を上昇させることがわかっています。
IT企業に勤める入社5年目の38歳男性の事例です。
時間外労働が2カ月続けて月120時間となり、産業医として面談しました。目立った体調不良はありませんでしたが、血圧を測ってみると、数回の計測のうち最も低いものでも最高血圧(収縮期血圧)が188mmHg(ミリメートル水銀柱)、最低血圧(拡張期血圧)が108mmHg。高血圧は I 度(軽症)、II 度(中等症)、III 度(重症)の3つに分類されますが、重症にあたることがわかりました。
10カ月前に受けた定期健康診断では、高血圧の指摘はなく、本人としては高血圧の自覚なく、毎日を過ごしていたわけです。重度の高血圧とあって、このまま放置しておくわけにはいきません。体調不良で倒れる恐れもあるため、時間外労働を月40時間以下に制限、内科の受診を指示しました。
健康診断結果の放置は厳禁
2カ月後に再び面談すると、血圧は正常値まで下がっていました。前回の後すぐに内科を受診し、血圧を下げる薬を服用しているとのことでした。主治医からは、規則正しい生活と、塩分をひかえること、たばこをやめるように指導されたそうです。血圧も安定してきているため、就労制限を解除、通常勤務可能と判断しました。
今回の事例では、産業医の面談まで、高血圧の指摘はありませんでした。ただ、定期健康診断などで高血圧を指摘されて、「要精査」「要加療」などの指示が出ているにもかかわらず、自覚症状がないことから、放置している例が多く見うけられます。
高血圧を放置していると、動脈硬化にはじまり、心疾患や脳虚血性疾患を引き起こすリスクも高くなってきます。健康で元気に働ける体を長く維持するためにも、定期健康診断での指摘を放置せず、生活習慣の見直すなどすることが大切です。