岡田健史 日々考える芝居のこと、課題を見つけ成長
「24時間365日、役者のことを常に考えている」。そんな強い意志をもって俳優業に臨むのは、今年5月12日に20歳の誕生日を迎えたばかりの岡田健史だ。芸能界入りは、2018年。同年10月期のドラマ『中学聖日記』では応募総数500人以上のオーディションで選出され、初の演技にしていきなり有村架純演じる主人公の相手役(黒岩晶)に抜てき。初々しくも懸命な芝居は瞬く間に注目を集めた。ドラマ放送直後の12月18日に公式インスタグラムを開設するとフォロワー数は1日で40万人を突破し、現在は約73万人にまで膨れ上がっている。今、最も注目を集める若手俳優の1人と言っても過言ではない。
「今日の取材に来る途中、自分の乗っていたバスの前に乗り遅れた女性がバッと飛び出してきて急停止したんです。運転手さんが『危ないですよ!』って怒るなか、車内では飛び出した人を見ようと立ち上がる人がいれば、無関心にスマホから目を離さない人もいる。そして、バスを止めた女性は何ごともなかったかのように乗ってきて。自分ならいたたまれなくて乗れないですけど(笑)、その女性にはバスを急停止させても乗らなきゃいけない事情があったのかもしれない。そんなことを考えていたら、世の中にはいろいろな人がいて、それぞれの人生があるんだなあって見えてきて。
僕にとっては日常のすべてがお芝居の勉強になるし、俳優としてまだまだな自分はいろいろな人を見ないといけない。他の仕事をしたことがないので何とも言えませんが、こんなにも自分の糧になるものが日常の中にある、俳優という職業の醍醐味を、改めて感じたんですよ」
「芝居のことは常に考えています。それは、単純に楽しいから(笑)。直接、現場で芝居をしなくても、例えば雑誌にモデルとして出演すれば、その時はスタイリストさんが服を選び、ヘアメイクさんがメイクを施してくれた上で、フォトグラファーさんがカメラというフィルターを通して岡田健史という俳優を表現してくれる。洋服やメイク1つで気分は変わるし、被写体である自分も新たな自分を発見できる。フォトグラファーさんに『笑って』と言われたときも、ただなんとなく笑うのではなく、いろいろな笑顔を見せたい。表現の幅を広げていく作業が楽しいんです」
とにかく、俳優業が楽しいと語る岡田だが、18歳までは野球一筋の少年だった。中学1年生の頃に、所属事務所からスカウトを受けるも、野球に専念するために、その誘いを断り続けていたという。
「スカウトされた当時は芸能界に興味がなくて、選択肢としては全く考えていませんでした。というのも、この業界に入るまでは野球漬けの毎日で、両親には『大学で野球を続ける』と宣言していたくらいです。でも、高校3年生の夏に野球部を引退した後、演劇部の公演に誘われて、初めて演技をすることになって。その後、県大会にも出場したのですが、芝居が終わり、舞台上で審査員の方からの総評を聞いている時、今までに感じたことのない喜びといいますか、心の底から『芝居がしたい!』という気持ちが湧いてきたんです。どれだけの衝撃だったかを、なかなか言葉でうまく説明ができないんですけど。
ずっと続けてきた野球への愛情もあったので、1カ月間くらい野球を続けるか俳優にチャレンジするかで悩みましたが、今はむしろ新たに情熱を注げるものを発見できた喜びしかないです。なんで悩んでいたのかって思えるくらい、芝居にハマっていますね(笑)」
「自分で言うのもなんですが、集中するとそのことばかり考えてしまう人間です」と語る岡田。自身の演技についても、次に生かすべく、冷静に分析して課題を見つけるよう取り組んでいる。
反省があるからこそ向上できる
「『中学聖日記』の出演が決まった時は率直にうれしかったです。相手役の有村(架純)さんや監督の塚原(あゆ子)さんたちに初めてお会いした時にも俳優になったんだという実感はありましたけど、実際に台本を手にした瞬間は改めて事の重みというか、ずっしりくるものがありました。本当に死にものぐるいでやらないと、選んでくれた方々に顔向けできないなって。
撮影に入る1カ月ほど前から、塚原さん直々に演技のレッスンをしていただきました。台本の読み方から声の出し方、感情の出し方まですべて緻密に。塚原さんは、この仕事をしている人なら誰もがご一緒したいと思う存在。初めての仕事でそんな方とご一緒できて、しかも芝居の『いろは』を直接教わることができたことは本当に財産ですね。
ただ、レッスンを受けたとはいえ、現場での芝居は難しかったです。言葉や表情、感情表現など、それらの1つひとつが組み合わさって芝居になるので、具体的に何が大変だったのかって聞かれると難しいんですけれど。ただ、『中学聖日記』で課題がたくさんあることは分かりました。それを、今後携わる作品で生かしたいですし、成長した姿を見せることが塚原さんへの恩返しにもなるんじゃないかと思っています」
そんな岡田にとって2作目の出演作となったのは、7月に放送された『福岡放送開局50周年記念スペシャルドラマ 博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(Huluで未公開シーンを含む完全版を配信中)。演じたのは、主人公の東京(あずま・みやこ)。福岡から東京へ引っ越した幼い頃に博多弁を使ったことで笑われてしまい、以降は博多弁を封印して生活してきた京の前に、福岡時代の幼なじみである博多乃どん子(福田愛依)が転校して…というラブコメディだ。『中学聖日記』の寡黙だった黒岩晶とは対照的に、京は表情豊かで饒舌なキャラクター。ともに同じ学生役にも関わらず、かなりテンションが異なる。
「『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』は、今の自分に足りないものを補いたいという気持ちで臨みました。とにかくいろいろなことにどんどん挑戦して、新しいことを得ていこう、と。『中学聖日記』はある意味シリアスな内容でしたが、こちらはラブコメディ。『こういう顔もするんだ』『こういうこともできるんだ』『こういうことをやろうとしている人間なんだ』と知ってもらえる、本当に良いチャンスをいただいたと感謝しています。
でも、見てくださる方にそのように感じてもらえるかどうかは自分の演技次第。コメディは難しかったですね。笑いの要素があるからといって、面白おかしく演技すればいいわけではない。変顔などはするけど、全部が全部笑わせようとすれば安っぽくなるし、全部がシリアスでもダメ。自分がこれまで何気なく見てきたコメディ作品はもちろん、お笑い芸人さんのコントやネタも、考えに考えぬいて作られているんだと感じました。
あと、僕は福岡県出身なのですが、京は博多弁を使いたくないという役。共演者のみなさんが博多弁を使うと、ついつい引きづられそうになってしまって。それも大変でした(笑)
そういう意味では、『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』も反省点が多かったです。でも、すべてに満足というようなことはなくて、どんな現場でも、改善して向上できる部分があると思うんです。『前回と違うタイプのドラマでコメディができた』と満足するのでなく、また新たな課題を見つけることができたのは良かったかなって。
その作業を何度も繰り返すことで、前の作品とは違う演技、例えどこか似た作品でもちょっとした変化を見つけられる俳優になれるのではないかなと。…なんて固いことばかり言っていますが、『どうしたら、これまでと違うふうに見せられるか』と考えながら、一役者として現場にいることが本当に楽しかったんですよ(笑)」
野球からすべてのことを教わった
20歳になったばかりとは思えぬ、強い意思を持つ岡田。その根本には、これまでの人生の約半分の時間を捧げてきた"野球"が大きく存在している。
「単純計算で11年間、野球をやってきました。どうやっても自分から、野球で培ってきたものを外すことはできないんです。それは、礼儀などの基本的な部分や目標のために努力を重ねることなど、人間性の部分で教わったことですね。だから、もっと早くから芝居に触れていたらと思うことは全くないです。
確かに、早くから芝居を始めていたら、『中学聖日記』の晶をもっとうまく演じられたはずという気持ちはないとは言えません。でも、野球を続けてきた今の自分でなかったら、そもそも『中学聖日記』に出演することも、今回のように取材をしていただくこともなかったでしょうし。僕自身、今までの人生の選択は間違っているとは思いませんし、むしろ良かったと思う。これからの人生も、自分はそうやって生きていくのだと思っています。
それから、高校が甲子園を目指す強豪高だったので、毎日の練習は超ハードで(笑)。あの当時の練習ほど辛いことはなかなかないと思うので、作品のためなら少々きついことでも耐える自信もあります(笑)。そんな野球と同じ情熱を、今俳優に注いでいるからこそ、求められることは何でもやりたいですし、これからもすべてをかけて取り組んでいくつもりです」
6月にはファースト写真集『鼓動』を発売し、写真集ランキングで堂々の1位を獲得。さらに、武田コンシューマーヘルスケア「アリナミンMEDICAL Balance」やイオングループ「イオンのほけん相談」のCM出演が決定するなど順風満帆だ。前述の通り、インスタグラムでは約73万人のフォロワーがいる。デビューからわずか1年での急激な変化を、岡田自身はどのように感じているのだろうか。
「インスタのフォロワー数が多いことは本当にありがたいですし、心から感謝しています。ただ俳優は、プライベートは明かさないほうが良いとも思うんです。『普段はこういう人なんだ』というフィルターができると、それを通して演技も見られてしまう気がして。
それでも、多くの方々に興味を持っていただいたことで、役者としての自分を理解できてきたように思います。そういう方々が感動し、体の鈴が鳴るように取り組まないといけない。自分が楽しむことも大事ですけど、それと同時に、見てくださる方にも楽しんでいただくにはどうすればいいのか、と常に考えています。
そして、私生活でも後ろ指を指されない行動をしないといけないなとも。僕は、それが生きにくいとか、自由が欲しいとは思わないです。今まで通り、普通に生活をしていれば大丈夫だと思っているので。デビュー後何年かしたらすっかり変わってしまったとか、僕に限ってそれは絶対にないです。調子に乗るようなことがあったら、この世界から消えていくことになるだけでしょうから。
僕は、演じることが好きになって今の俳優活動が始まっているので、極端な話、芝居に情熱を注げなくなったら、この業界から潔くサヨナラすればいい。だから、いつでも普通の生活に戻れるように、生きているつもりです。
自分には俳優として、クリアすべき課題はまだまだたくさんあります。でも課題を見つけては乗り越えて、それを繰り返していくことで、僕自身も俳優として成長できると思うので期待してほしいです。そして、僕の芝居を通じて、見ている人たちが一瞬でも現実の世界を忘れて、作品の世界観に浸ってくれたら、俳優としてそれ以上にうれしいことはないですね」
2018年10月期のドラマ『中学聖日記』で俳優デビューを果たした岡田健史。インスタグラムのフォロワー数は73万人を誇り、6月に発売したファースト写真集『鼓動』は、発売翌週にはオリコン写真集部門で1位を獲得した。岡田は「いろいろな国からの映像作品のオファーが受けられる俳優になりたい。そのために英語は不可欠」と語り、英語の猛勉強中。フランス・パリ滞在中には、ファッションブランド「ディオール」のショーを見学した後、ディオールのアーティスティック・ディレクターであるキム・ジョーンズ氏から直接声をかけられて撮影。世界屈指のクリエイターたちからも注目されつつある。
(ライター 大沢圭)
[日経エンタテインメント! 2019年9月号の記事を再構成]
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