青く輝く巨大な新種タランチュラ オスは小さく地味
宝石の国と呼ばれる島国スリランカに、宝石のようなタランチュラがいた。メスはドーナツを抱え込めるほど大きく、柔らかい毛に覆われた体はターコイズブルーに輝いている。このクモは、学術誌「British Tarantula Society Journal」2019年8月号に新種として報告された。
発見された場所は、スリランカ南西部の、周囲を茶葉とゴムの農園に囲まれた雨林地帯だ。糸で壁の内側を覆った筒状の巣穴で暮らしており、動きは素早く攻撃的で、地下の巣に近づいた不運な昆虫を餌にする。全長はおよそ13センチ弱。大きくて鮮やかな青色を身にまとった姿は珍しい。
事実、生物学者ラニル・ナナヤッカラ氏の目を引いたのも、新種だろうと思わせたのもこの派手な青色だった。
「最初に見たときは、驚きのあまり言葉を失いました」。美しい体色のメスについて、ナナヤッカラ氏はそう述べている。「オスの方は体が小さく、体はコケのような茶色をしています」
研究に寄付をした篤志家の名前にちなんで、ナナヤッカラ氏は新種をChilobrachys jonitriantisvansickleiと命名した。このタランチュラは、スリランカで発見されたキロブラキス属としては2番目の種となる。最初に見つかったのは、キロブラキス・ニテルス(C. nitelus)というくすんだ茶色の種で、126年前に報告されている。隣国インドには、20種以上のキロブラキス属の近縁種が暮らしており、その大半はごく平凡な茶色をしているが、中には派手な色を持つものも数種含まれる。
スリランカのケラニヤ大学に所属するクモ研究者であるナナヤッカラ氏は、2015年に行った調査において今回の青いタランチュラを数匹採取した。その後、2年間かけて既知のキロブラキス属と詳しく比較し、最終的に独立した種と判明した。
今回の発見は、スリランカの豊かな生物多様性と、未発見のクモがまだ数多くいることを示している。
生物多様性は豊かだが個体数は少ない
C. jonitriantisvansickleiがスリランカで初めて発見されたことは明らかだが、専門家らは、彼らがクモの系統のどこに位置するのかを確認するために、遺伝子的な研究を行う必要があると述べている。
「このクモが新種であると認めることはやぶさかではありません。ただし、たとえばキロブラキス・アンデルソニ(C. andersoni)のような種は生息範囲が広いことを考えると、今回の新種がインドにいる既知の種である可能性については、いずれきちんと検討する必要があるでしょう」と、オーストラリア、クイーンズランド博物館でクモ類を担当するロバート・レイヴン氏は言う。
遺伝子の配列を解読すれば、このタランチュラが独立した種であることを別の角度からも確認できる。こうした検査はまた、種の進化を理解することや、保護計画を立てるうえでも重要となる。レイヴン氏は、スリランカのような場所においては、豊かな生物多様性は同時に、個体数が少ないことを意味していると指摘する。そして、「それを研究する科学者の数はさらに少ないのです」
今のところ、C. jonitriantisvansickleiが希少種、あるいは絶滅の危機に直面している種であるかどうかはわかっていないが、なかには絶滅が危惧されているクモもいる。
「ほぼ未調査のクモがたくさんいる」
ナナヤッカラ氏がスリランカで珍しいタランチュラを発見して注目を集めるのは、これが初めてではない。
2013年には、Poecilotheria rajaeiという、木にすむ巨大なタランチュラを報告した。幾何学的な格子模様に彩られ、脚先から脚先までの長さが人の顔を優に超えるこのタランチュラは、タイガースパイダーと呼ばれ、メディアによって大いに取り上げられた。
こうした大型のクモが同定されずにいることは、スリランカでは今でもごく普通にあることだと、スリランカ国立基礎研究所のスレシュ・ベンジャミン氏は言う。
氏によると、スリランカは生物多様性の宝庫だが、1948年の独立以降、詳しく研究されたのはそのごく一部に過ぎないという。
たとえば、スリランカで同定されている593種のクモのうち、108種はこの20年の間に分類されたものであり、またスリランカのクモについての唯一の図鑑が出版されたのは、100年以上前のことだ。
これを踏まえると、この先、さらに多くの新種が発見される見込みは高いだろう。
ベンジャミン氏は言う。「ここ数年でわたしたちが行った現地調査の結果は、島に残る森には、ほぼ未調査のクモがたくさんいることを示しています」
(文 NADIA DRAKE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年8月29日付]
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