椅子持ち出して軽く一杯 川辺や公園でチェアリング
仲間とアウトドア用の椅子を持って川辺や公園に出かけ、話し込んだり軽く一杯を楽しんだりする「チェアリング」が、気軽なアウトドアのアクティビティーとして注目されている。その魅力や、外でチェアリングをするうえで気を付けるべき点を探った。
川辺や公園 都心でひと息
チェアリングは2016年、フードライターのパリッコさんとスズキナオさんのユニット「酒の穴」が提唱したアクティビティー。今ではJCA日本チェアリング協会という愛好家の団体もできている。
パリッコさんが新しいお酒の楽しみ方として自身監修のカルチャー誌ではじめて紹介し、18年ごろから様々な雑誌や情報サイトで取り上げられて知名度が上がった。「思い立った日にすぐできるアウトドア。天気が良く予定がない日にふらっと楽しめる」とパリッコさん。
チェアリングの持ち物はアウトドア用の椅子ひとつ。飲食物を入れる保冷バッグがあっても良いが、「装備が増えすぎるとキャンプになってしまうので、なるべく手軽に」(スズキナオさん)。飲み物や食べ物は現地のスーパーやコンビニで調達するという。
さっそく実行してみた。飲食物を買ったら、飲食や椅子の持ち込みが禁止されていない河川敷の広場に向かった。管轄自治体によってルールが異なるため、確認してから行うようにしたい。私有地や路上など他人に迷惑な場所は避け、アウトドア用の椅子に座れば、それだけでチェアリングのはじまりだ。
河川敷や公園に設置済みのベンチでも良いのではと思ったが、「自分で場所を決め、飽きたら移動するのも醍醐味」(パリッコさん)。アウトドア用の椅子は深く腰掛けられるので遠くの景色に目が行きやすく、リラックスできる。スズキナオさんが「川の水辺で水面を眺めたり、木々の音に耳を澄ませたり」と言うように、アウトドアの側面が強い。
外に椅子を置いて飲酒すれば悪目立ちするかもしれないと思っていたが、仲間数人で静かに座っているだけであれば、変に目立ったり他の利用者を不快にさせたりすることは少ない。
広がる交流 街おこしにも
公共エリアを使う以上、マナーは非常に重要だ。JCA日本チェアリング協会は、公式フェイスブックで「公共の場を占有しない」「騒がない」「人様に迷惑をかけない」ことを守るよう呼びかけている。
同協会の伊藤雄一さんは、往来を妨げず、責任者がいてすぐに椅子などを撤去できる状態を保つこととしたうえで、「問題がないからといって居座るのではなく、もし何かを言われたらきちんと説明できることが大切」と続ける。
チェアリングでこれまでにトラブルが起きたとの報告はない。むしろ通りすがりの人に「楽しそうだね」と話しかけられ、交流が生まれることもある。「チェアリングは日本の治安の良さや、コンビニなどのインフラが整備されているからこそ楽しめる。街を利用しているという意識を忘れずに楽しんでほしい」と伊藤さん。
一方、チェアリングを地域の街おこしに活用している団体もある。千葉県木更津市で市街地活性化に取り組む市民団体「木更津みなとまちなかワークショップ」では、7月に若者たちがチェアリングをはじめた。様子を見ていた住人から「次回は参加したい」と好意的な意見が寄せられ、今後は月1度の開催を予定している。
木更津みなとまちなかワークショップの山下善明さんは「メインターゲットは地域外の人」と話す。「木更津には昭和期に建てられた建造物が残っていて面白い。地域外の人や、一度街を離れた人がチェアリングをしながらそんな建物を見ることで、街の魅力を再発見してほしい」
チェアリングは参加人数が増えると騒音問題なども出るため、イベントの規模を拡大することは考えていないという。「規模の大きさは満足につながらない。ゆっくり過ごせる時間をつくることを大切にしたい」(山下さん)
アウトドア用の椅子さえあれば、自分一人で思い付いた時にはじめられるチェアリング。少し涼しくなるこれからの時期にはじめてみては。
(ライター かみゆ編集部 小沼 理)
[日本経済新聞夕刊2019年8月31日付]
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