「新卒一括採用、明治に起源」 社会学者・小熊英二氏

日本の進むべき方向性を決めるのは
政治家でも学者でもなく
今を生きる人々の意思に他ならない

――なぜ多くの日本の経営者は、旧態依然とした組織を本気で変える必要性を感じないのでしょうか。

それはある意味当然で、その仕組みの中で一番利益を得ている人たちがトップにいるからです。

本書では、国際社会における日本の「低学歴化」についても指摘しました。西欧諸国に比べて、日本は博士課程の進学率も、博士号取得者の数も伸び悩んでいます。その最大の理由は、日本では「どの大学に入学したか」は重視されても、「大学で何を学んだか」は企業に評価されないこと。大学の序列こそが重要であり、専門的な学位は評価対象となっていないのです。

組織を本気で変えるのであれば最初に問われるのは経営陣の能力です。他国のしくみでは、修士号や博士号で示される専門能力や、業績評価が一番厳しく問われるのは経営層や幹部層です。そこを変えないで、企業秩序の下部や外縁部を「改革」しても、日本企業のシステムは変わりません。それを今の経営陣が本気でできるのかが問われているのだと思います。

――上からの変化を待つのではなく、働き手一人ひとりにできることはありますか?

私はドイツやインド、メキシコなど様々な国に滞在しましたが、全ての国に社会を規定する慣習はあり、時代が変わっても、そのしくみはなかなか変わりません。それは仕方がない。それでも、私たちはそのしくみがどういうもので、どんな経緯でできたのかを知るべきだと思います。今を問い直す契機になるからです。

長年日本社会の安定を支えてきたしくみはかなり弱ってきています。ここからどういう改革の方向性を選ぶべきなのか、まず自分で考え、そして周囲と議論してほしいと思います。進むべき方向性を決めるのは政治家でも学者でもなく、この社会を生きる一人ひとりの意思に他ならないのですから。

『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学
小熊英二著/講談社現代新書/1300円(税別)
テクノロジーの進化で急激に変化するビジネス環境下にあって、企業の成長には多様性や柔軟性、変化対応力が求められるが、日本企業の多くが硬直的かつ同質的な組織のままだ。新卒一括採用、終身雇用、定年制などの「日本型雇用」は歴史的にどのように形成され、なぜ今も社会に根付き続けるのか。データと歴史を検証し、日本社会を規定するしくみを明らかにした上で、これからの日本が進むべき道を問い掛ける。
おぐま・えいじ
慶応義塾大学総合政策学部教授。1962年東京都生まれ。東京大学農学部卒。出版社勤務を経て、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007年から現職。専攻は歴史社会学。『単一民族神話の起源』でサントリー学芸賞、『<民主>と<愛国>』で大佛次郎論壇賞、毎日出版文化賞、日本社会学会奨励賞を受賞。他の著書に『社会を変えるには』『生きて帰ってきた男』などがある。

(撮影/福知彰子 取材・文/佐藤珠希)

[日経マネー2019年10月号の記事を再構成]

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

著者 : 小熊 英二
出版 : 講談社
価格 : 1,404円 (税込み)

ビジネス書などの書評を紹介
注目記事
ビジネス書などの書評を紹介