
およそ9億年前、あるブラックホールが、宇宙全体に反響するほど大きなげっぷをした。そして2019年8月14日、このときに引き起こされた時空のさざ波が地球を通り過ぎた。これはかつて観測されたことのないタイプの衝突の証拠であり、宇宙の仕組みについて新たな知見をもたらしてくれる可能性がある。
今回観測された現象は「S190814bv」と名付けられており、ブラックホールと中性子星の合体によって引き起こされたと見られている。ブラックホールと中性子星は、どちらも星が爆発した後に残される超高密度の天体だ。ブラックホールと中性子星が連星になることは以前より予想されていたが、さまざまな望遠鏡を使って宇宙を眺めても、実際に観測されたことはこれまで一度もなかった。
一方で天文学者らは、もしブラックホールと中性子星が合体した場合には、重力波と呼ばれる時空のさざ波を起こすことを期待していた。ふたつの極めて巨大な天体が衝突すれば、重力波が発生することは、アインシュタインの一般相対性理論によって1世紀以上前から予言されていた。
重力波が初めて観測されたのは2015年である。このときは重力波観測施設「LIGO」が、ふたつのブラックホールが合体したときに発生した重力波をとらえた。つまり、重力波によってブラックホールの合体が観測できたわけだ。以来、LIGOと、欧州にある重力波観測所「Virgo」によって、さらなるブラックホール同士の合体の他、中性子星同士の合体が観測されている。
LIGOとVirgoはどちらも今回のS190814bvによって発生した重力波をとらえており、もしこれが本当に中性子星とブラックホールの合体であれば、重力波の観測によって確認された大規模な衝突としては3つ目の現象となる。
LIGOとVirgoは、4月26日にも中性子星とブラックホールの合体の兆候をとらえているが、研究者らは、今回のS190814bvの方がはるかに重要度が高いとしている。4月に観測された信号は、地球からのノイズである可能性が7分の1の確率で存在し、これと類似した偽の兆候は20カ月に1回現れると予測されている。一方S190814bvは、地球のはるか遠くで起こったことがほぼ確実であり、もしもS190814bvと類似した偽の兆候が現れるとしたら、宇宙の年齢よりも長く待たなければならないだろうと、LIGOチームは推測している。
「今回の兆候は大いに期待できるものです」と、米ノースウェスタン大学の物理学者で、LIGOチームの一員であるクリストファー・ベリー氏は言う。「これは本物である可能性が非常に高く、だからこそ時間と手間をかける価値があるのです」
「実にエキサイティングな状況です」
LIGOとVirgoはまた、S190814bvの発生源を追跡し、これを満月の約11倍の幅を持つ楕円形の領域にまで絞りこんだ。そのため、もしそこに異常な光の点滅があれば、望遠鏡で発見できる。現在、世界各地および軌道上にある観測機器が、それぞれ定期的に行っている観測を一時中断して今回の追跡に加わっており、初期の観測結果をリアルタイムで公開している。
「実にエキサイティングな状況です」と語るのは、NASAのスウィフト望遠鏡の観測担当科学者アーロン・トフバボフ氏だ。スウィフト望遠鏡は、重力波の信号と同じ領域で発生しているX線および紫外線を探している。「一晩中寝ずに観測を続けましたが、この作業ができることがとても幸せです」