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急速に氷失う北極圏 覇権争いに米国・中国が参戦

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/9/6

ナショナルジオグラフィック日本版

カナダ北部ヌナブト準州のコーンウォリス島で行われたサバイバル訓練中、カナダ兵が飛行機の残骸に上る。北極の温暖化に伴い、将来の覇権をめぐって緊張が高まるなか、カナダ軍と米軍は北極での活動を強化している(PHOTOGRAPH BY LOUIE PALU)

北極圏は決して不毛の地ではない。気候変動で氷が解けるにつれ、むしろ経済活動の場として世界の耳目が集まる。氷の下に眠る資源、新航路――これらは新たな対立の火種であり、グリーンランドを買いたいという話まで登場したのは記憶に新しい。ナショナル ジオグラフィック2019年9月号では、北極をめぐる各国の思惑と、北極をとりまく現在をレポートしている。

◇  ◇  ◇

2019年5月初め、マイク・ポンペオ米国務長官がフィンランド北部に飛び、北極圏の8カ国と先住民団体の代表で構成される「北極評議会」の会合で演説した。同評議会は設立以来およそ20年にわたり、北極圏各国と先住民が持続可能な開発や環境保護などで協議、協力する場として機能し、気候変動対策にも積極的に取り組む姿勢をとってきた。それとは正反対の立場をとる政権の特使として、ポンペオがこの場に乗り込んできたことには、何とも違和感があった。

「米国は北極圏に領土をもつ国として、北極圏の未来のために今こそ立ち上がる」。ポンペオは公式会合の前夜に開かれたイベントでそう宣言した。「なぜなら、かつては不毛な奥地とみられていた北極が……それとはかけ離れた商機と豊かさの最前線となったからだ」

かつては氷に閉ざされた不毛の地とみられていた北極が、今では大きな可能性を秘めたフロンティアの名をほしいままにしている。北極は経済活動の場として注目されるようになった。

海氷に覆われた水域の面積は例年、夏に縮小し、冬になると拡大するが、今では夏季の縮小が記録的な規模になり、縮小が加速しているとの見方もある。米航空宇宙局(NASA)の研究者による推定では、海氷面積は年平均およそ5万4000平方キロのペースで縮小しているという。2014年の「全米気候評価」報告書では、2050年までに北極海は夏に氷がない状態になると予測されている。

「予想よりもはるかに早く事態が進んでいます」と、米国のシンクタンク「ウィルソン・センター」の極地研究所のマイケル・スフラガ所長は言う。「海が目の前で刻々と開かれようとしているのです」

北極をめぐる各国の争奪戦は領有権争いとは違う。一部にまだ係争中の水域があるが、それを除けば、北極点も含め、北極海の海底の大半は、すでにそれぞれの国の領有権が確定している。各国政府と企業が虎視眈々と狙っているのは、金、ダイヤモンド、レアメタル(希少金属)などの鉱物、石油、天然ガス、さらには漁業資源など、膨大な価値のある未開発の資源と、海上輸送コストの大幅削減が見込める新航路だ。

ロシアとノルウェーは過去10年間、北極圏諸国のなかでも最も活発に開発計画に着手し、石油・天然ガス採掘のインフラや、大型コンテナ船が利用できる大水深の港湾の整備、氷に閉ざされた北極海を航行できる船舶の建造に巨費を投じてきた。一方、中国もロシアの天然ガス開発計画を支援し、その他の北極圏諸国に開発資金の借款を申し出ているだけでなく、国産の砕氷船を複数建造してもいる。

この動きと対照的だったのが、これまでの北米諸国の動きだ。カナダと米国は、2国合わせて北極海沿岸の半分近くを領有しているにもかかわらず、北極にあまり目を向けてこなかった。

ロシアは砕氷船を51隻保有しているが、米国が保有する現役の砕氷船はわずか5隻。しかも北極圏内には大水深の港湾が一つもない。北極の資源開発に関心が集まるなかで、権益争いが対立に発展し、さらには欧米諸国とロシアや中国との間で新たな紛争が勃発する可能性さえ、ささやかれ始めている。ポンペオが北極評議会に出席した背景には、こうした懸念があった。

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