申し訳ありませんが、不本意ながらリーダーに映画監督・脚本家 三谷幸喜氏(上)

――格好いいだけがリーダーではないのではありませんか。

「皆さんが僕のことをどう思っているかは謎ですね。僕のつくる映画はすごく特殊だと思います。今の映画はカットを割ってテンポを出す、というのが最先端です。僕はなるべくカットを割らないように考えます。映画の一番のポイントはカット割りだと思いますが、そういうのを使わずにつくろうとするところが僕にはあります。昔のハリウッド映画の方が好きなので『あのテイストを何とか生かしたいな』と思っているからです」

どう思われているのか疑心暗鬼

「でも『絶対時流に合っていないな』と自分でも思いますし、周りの映画のベテランの人たちから『こんな時代遅れのものをつくっているんだ』と見られているんじゃないか、と疑心暗鬼にいつもとらわれています。もちろん現場でスタッフにそんなことを言われたことは一回もないですけど、『心の中で思われていても当然だな』と自分では感じるのです」

――監督として自身で満足できた作品はありますか。

「最初に撮った映画『ラヂオの時間』のときから、僕の監督としてのスタンスは変わっていません。作品のクオリティーを高める前に、まずスケジュールを守る、予算内に収める、です。僕が歴史上の人物で一番好きなのは大村益次郎という幕末の長州藩の軍師です。頭のいい人で、上野戦争で彰義隊を壊滅するときに彼が立てた作戦は完璧で、彰義隊が降参する時間まで全部読んでいたそうです。そういう計算が全部ぴったりはまる、そんなふうに映画を撮りたいと思って、スケジュールと予算は絶対に守るというのが、僕の一番の目的でした。それを達成できて、それが僕はうれしくて」

「皆が本音の部分でどう思っているんだろうというのがすごく気になる」

「もちろん、よりいいものができればそれに越したことはないんですけど、僕にとってその日の撮影の終わりの時間というのはすごく大事です。映画では深夜まで撮影することも多いですが、僕は夕方の5時くらいに終わったりします。スタッフも皆喜んでくれて『三谷組はいい』などと言ってくれますけど、『もっと時間をかけて撮ってください』と本当は思っているんじゃないか、と不安になるのです」

――作品のクオリティーにこだわった方がいいのではないかと悩んでいるのですか。

「僕は別に妥協しているわけではないですが、皆が本音の部分でどう思っているんだろうというのがすごく気になるんですよ。ただ、僕のスタンスは、そんなに粘らない、時間通りに収めたい、というもの。それと、粘ってもそんなに変わらないというのもあります。何テークも撮ったけど、編集で使うのは1テーク目や2テーク目だったりすることがほとんどです」

「俳優さんのモチベーションも1回目だと高くて、集中力も違うし、密度が違います。ミスがあった時にはもう1テーク撮りますけど、やっぱり最初が一番いいんです。俳優さんで『妥協しちゃダメですよ三谷さん』と言ってくれる人もいますが、でも、それは妥協ではないんです。これ以上やっても絶対よくならないとわかったときに、やる必要があるのだろうか、と思っています。それでも、スタッフたちは『粘ればいいのに』って思っているんじゃないかと、また疑心暗鬼になる。その繰り返しですね」

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三谷幸喜
1961年生まれ。日大芸術学部演劇学科在学中の83年、劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成、94年に休団。90年代からテレビドラマなどの脚本家、演出家、映画監督などとして活躍。監督・脚本を手がけ、記憶喪失の総理大臣を主人公にした最新作「記憶にございません!」が13日から全国東宝系で公開。

(笠原昌人)

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