トップは「怒らない」がいい 楽しませて物事は進める映画監督・脚本家 三谷幸喜氏(下)

――笑ってくれる顔が好きだったのですね。

「それもだんだん変わってきます。プロデュース公演をやるようになってからは、お客さんの喜ぶ顔はもちろん見たいんだけど、自分が面白いと思ったものと、お客さんが面白いと思ったものがイコールじゃなかった場合、どうするんだろうと考え始めました。僕は全然面白いと思わないのに、お客さんが笑ってくれるのならつくるのか、と考えたら、つくらないと気づきました。『お客さんは関係ないな、自分が面白いと思うものをつくろう』と。それをお客さんに提出して笑ってくださるなら御の字だけど、笑わなくてもいいですよ、というふうに考えが変わってきました」

「万人を笑わせなければいけないと考えると、自分が面白いと思わないものをつくって笑いのレベルを下げなければいけないことも出てきます。老若男女を笑わせるというけれど、おじいさんおばあさんたちを笑わせたり、小さい子供たちを笑わせたりするためには、どんどん話をわかりやすくしなければいけなくなる。それは僕ではなくて、もっと別な人がやるべきものなのかな、とお客さんを過剰に意識するのをやめよう、と変わりました」

プロジェクトに関わった人たち、俳優さんを笑わす

「じゃあ誰を笑わすのかというと、プロジェクトに関わった人たち、それに俳優さんですね。俳優さんが初めて読み合わせをしたときに爆笑して、もう先が読めないみたいになったときの至福の喜びが大事な感じがします。でも、俳優さんたちが面白いと思ったことは、たぶんお客さんも面白いと思ってくれるんですよね。僕が面白いと思ったことは、俳優さんたちも、お客さんも笑ってくれる。そんなふうに考えが変わってきました」

――映画やドラマで様々なリーダー像を描いています。

「話が飛んじゃいますけど、僕には今、5歳の子供がいます。自分の人生で子供ができるなんて考えもしなかったのです、5年前までは。僕はそういう人生ではない、子供がいる家庭を見て『楽しそうだな、幸せそうだな』と思うけれど、僕はもっと別な幸せをたくさんいただいている。好きに作品をつくれて、映画も舞台もテレビもやらせてもらって、いい俳優さんと一緒に仕事ができて、お客さんも喜んでくれている、こんなに幸せなことはない、と。それプラス家庭の幸せなんて求めたら、罰が当たるような気がしていたのです」

ドラマをつくる人間は家族も大事にしなければいけない

「けれども、子供ができてから、ちょっと自分のスタンスも変わりましたね。記憶喪失の総理大臣を主人公にした13日公開の最新作『記憶にございません!』では、中井貴一さん演じる総理が『奥さんを幸せにできない人間が国民を幸せにすることはできない』と言います。正直にいうと、物語の流れからセリフを思いついて書いただけで、本当に僕がそう思っているかはまた話が別ですけれども」

「ただ、改めて考えると、やっぱり家庭の幸せと仕事の幸せと、両方を自分のものにして何がいけないんだろうと、思うのです。家族の幸せを願う気持ちは人として当然だし、家族をないがしろにして人を感動させる物語をつくっているやつって気持ち悪いな、と思いました。エンターテインメントとして、人に楽しんでもらえる、喜んでもらえる映画や舞台、ドラマをつくる人間は家族も大事にしなければいけない、というふうに今は思います」

監督・脚本を手がけた最新作「記憶にございません!」(全国東宝系で13日公開)の撮影風景。主演の中井貴一さん(左)と三谷幸喜さん (C)2019 フジテレビ 東宝
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