育児と両立、腐らず続けて運命の仕事に 名執雅子さん
法務省矯正局長(折れないキャリア)
罪や過ちを犯した人にどう立ち直ってもらうか――。全国の刑務所や少年院を所管する法務省矯正局で、女性初の局長として日々奮闘する。多忙な業務に悩んだり、くじけそうになったりしたこともあるが、「腐らず続けるうちに運命の仕事になった」。
就職のきっかけは偶然だった。男女雇用機会均等法の施行前、女性の就職先が限られた時代。「公務員であればチャンスがあるのではないか」。東京・霞が関の官公庁を志して法務省の門戸をたたき、見学した少年院が決め手となった。「地味だが、人の役に立てる重要な仕事だと感じた」
とはいえ、当初は本省のほか少年院といった現場での勤務を重ねつつも「やりがいや仕事の意義を感じられない時期があった」。
加えて育児との両立で「綱渡りの毎日に心が折れそうになった」。31歳で長女、36歳で長男を出産。現場では月5~6回の当直勤務に加え数年ごとに転勤もある。仙台市の女子少年院長に就いた時は単身赴任し、実家の母親の手も借りて「何とかやり繰りした」。
ところが突然、「本気で仕事に立ち向かう転機が訪れた」。2002年に発覚した名古屋刑務所事件だ。刑務官が集団暴行し、受刑者が死傷したとされる。約3年にわたり、本省矯正局の職員として国会やマスコミへの対応に追われる毎日を送った。
「なぜ事件は起きたのか」「刑務官らの勤務環境に問題はなかったのか」。真剣に向き合うなか、興味を持てなかった業務が「実は大きな意味を持つことに気づいた」。事件を契機に約100年ぶりの監獄法改正の作業にも携わり「仕事の重要性を再認識できた」。
入省から35年が過ぎた。「局長の就任は想像していなかった」と笑うが、周囲の期待は大きい。心掛けるのは「明るく風通しの良い職場環境」だ。事件を踏まえ、矯正に携わる職員にとって働きやすい職場こそが受刑者らの立ち直りにつながると信じるためだ。
「矯正の現場は小さな世界かもしれないが、時代のひずみの縮図で、社会全体に関わる仕事でもある」。目下の課題は人材の確保と育成だ。民間への就職に目が向きがちな今どきの学生に、「矯正の仕事は人生の再出発を後押しし、国の治安を支える醍醐味がある」と訴える。
(聞き手は江藤俊也)
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