アルペンの女性管理職急増 ママ社員の「ジョカツ」
総合スポーツショップ「スポーツデポ」、ゴルフ専門店「ゴルフ5」、小商圏スポーツショップ「アルペン」など、北海道から沖縄まで全国に約400店舗を展開する、スポーツ用品販売大手のアルペン。「働きがいNo.1」を行動指針として、職場環境の改善に取り組んでいる。イクボス研修や、女性躍進を進めている同社の「仕事と育児の両立しやすさ」について、自身の経験から女性活躍を進めているママ社員を紹介する。
自身の経験を踏まえて「ジョカツ」をスタート
アルペンは2015年8月、「女性活躍推進プロジェクト」、略して「ジョカツ」をスタートした。プロジェクトリーダーの菊池美穂さんが、育児と仕事の両立に悩んだ自身の経験から、会社に働きかけて実現したものだという。
菊池さんは04年の入社以来、2つの店舗、商品部を経て出産。出産の際に、会社のサポートの必要性を痛感したという。「第1子の妊娠中にはつわりで休職を経験しました。妊娠~復職に至るまで情報が不足していましたし、頼る先も乏しかった」。必要な情報を必要なときに得る重要性を身をもって感じたことが、その後の活躍の原動力になった。
育休明けは教育研修部に所属。質の高い教育の提供と人材の育成に向けた、各種研修企画とツール開発を担当した。
復職してしばらくは短時間勤務制度を利用していたが、「 短い時間で以前と変わらない、もしくはそれ以上のアウトプットを出しているつもりにもかかわらず、評価されない日々に涙をのんだ」という。
そんなもやもやを抱えながら仕事を続けていたころ、事務局としてかかわった若手社員の社内勉強会で、「女性の活躍支援」をテーマとするグループに一人も子育て経験者がいなかったことから、グループに参画することに。 「このころになると、まわりにも『子どもができても働きたい』という女性社員が増えてきた」。制度や雰囲気を変えていける、機運の高まりを感じた。
一方、同社の正社員の男女比率は8対2。店舗ではさらに男性社員のほうが多いため、女性社員の同僚がいるとは限らない。「私も店舗勤務の経験がありますが、周りに先輩の女性社員がいないんですよね。最近では会社もなるべくまとめて女性を配置するようにはしていますが、育児と仕事を両立しているロールモデルが少なかったため、若手が自分のこの先のキャリアを想像できない問題がありました」。
さらに、社員から聞き取りをした結果、自己評価が低い女性社員が多いことも感じた。「私なんてそんなに仕事はできない、無理、とか、頑張って働く意味を見い出せない、など、極端に自信がない女性が多く見受けられました」
20代のうちからキャリアを考える仕組みを作る
そうした問題点を見つけてから、まず取り組んだのが管理職の意識改革だ。部下の生活にも配慮できる上司「イクボス」をテーマとしたセミナーを開くとともに、女性社員との座談会を全国で実施した。また、女性社員に対しては「ジョカツフォーラム」を開催し、働き方、キャリア形成についての啓蒙活動を進めた。
早期キャリア形成を支援するため、16年から25~35歳の女性を対象に「両立支援カフェ」を始めた。ティータイムも入れたカフェのような空間で、同年代や子育て中の女性が集い、仕事と家庭の両立に関する情報交換を行う会だ。
「両立支援カフェは、同年代の女性社員が集まり、ロールモデルの紹介や制度、働き方について話し、横のつながりを作ります。参加年齢は25~35に設定して、1年に1、2回、将来のキャリアについて考える機会を設けました。20代後半になる前から、自分の人生のちょっと先を見たときにどんな制度があるのか、先輩たちがどう働いているのかを理解してもらうことが目的です。何回も開催して、対象者は一巡し、今後はこれから25歳になるタイミングの女性社員を対象に実施予定です」
さらに、他社で活躍されている女性をゲストで招くなど、参加者の年齢に応じたさまざまなプログラムを開催。社内ネットワークを広げ、ライフイベントをふまえたキャリアビジョンを描くきっかけとなっている。
リーダーとなる女性育成プログラム
今は、キャリアを高めるための「ダイヤモンドプログラム」に注力をしている。「『あなたは磨けば光る原石なんだよ』ということをメッセージとして伝えています。店長候補やマネジャー、管理職候補の女性に対して、1回25人前後が参加する形で開催しています。先輩リーダーからのメッセージや、ケーススタディ、ディスカッションを交えながら、自分の強みはなにか、高めていくためにどうすればいいのかを、ディスカッションなどを交えつつ考える場としています」
同社は女性管理職を20年には15年に対して10倍以上に増やす目標を掲げていて、現在はプロジェクト開始前より管理職7人、店長が22人増加した 。
そうした女性社員のマインドを高めつつ、社内の制度も整備。菊池さん自身が、妊娠~復職でどういう申請をどこにすればいいのか戸惑った経験から、ライフイベントに関わる制度の内容や申請方法などをわかりやすく解説したガイド『ライフサポートnavi』をまとめた。そして、育休延長期間の拡大・積立有給休暇の適用を拡大。結婚、出産、育児、介護などのライフイベントを理由に退職した人が再び活躍できるジョブ・リターン制度の新設など制度改定にも関わった。子育てなどと両立できるように、時間単位年休の導入、時差出勤制度の導入を実施など、育児・介護のサポートの充実も進める。
店舗でも女性の働きやすさを追求した。店舗ではアルバイトを含めると半数が女性で、妊娠中の場合、既存のユニホームでは働きにくいという問題があったが、働くママ社員の意見を盛り込み、機能にこだわった妊婦用のオリジナルエプロンを作成。現場では「軽くて動きやすい」など好評だという。
菊池さんは女性の活躍をさらに後押しできるよう、昨年4月にキャリアコンサルタントの国家資格を取得した。「キャリアコンサルタントで学んだことを『ジョカツ』にも生かしていきたいですね。社内のいろいろな相談に乗って、さらに個人のキャリア育成にきめ細かく関わっていければと思っています」
(取材・文 日経DUAL編集部=羽田 光)
[日経DUAL 2019年4月1日付の掲載記事を基に再構成]
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