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ストレスと依存症の深い関係 きっかけは日常の中に

精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんに聞く(上)

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

性暴力や虐待など、弱者を狙った事件が相次いでいる。また近年、そうした犯罪行為の背景の一部に「依存症」があることが明らかになってきた。人はどうやって依存症になるのか、依存症にならないように、日々のメンタルを良好に保つコツはあるのか。日ごろからストレスにさらされがちなビジネスパーソンが知っておきたい依存症対策について、この問題に詳しい精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんに聞いた。

1回目の今回は、日常の中で起きている痴漢行為を例に、依存症になる仕組みや実態について解説する。2回目は、依存症からの回復モデルと、加害者性を発動しないために有効なストレス対策について紹介する。

依存症になるきっかけは、ごく普通の生活の中に

――斉藤さんは、精神保健福祉士・社会福祉士として、アルコール依存症や薬物依存症をはじめ、性犯罪や虐待(DV)、万引きなどの各種治療プログラムを立ち上げ、依存症患者さんの治療に長年携わってきました。依存症とはやめたくても、やめられない状態など、意志の力ではコントロールできなくなること。著書『万引き依存症』(イースト・プレス)の中で、「依存症になるきっかけは、ごく普通の日常生活の中にある」と指摘されていますね。

斉藤:依存症というと、真っ先に浮かぶのは、アルコールやギャンブルでしょうか。ほかにも、買い物、インターネット、薬物、万引き、暴力など、たくさんのワードが出てくるはずです。依存の対象は「物」だけではありません。「人」に依存すると、虐待やDV、ストーカーといった問題に発展する場合があります。一方、ギャンブルやインターネットは「行為・プロセス」に耽溺(たんでき)するケースで、仕事やダイエットも、これに当たります。世の中には、ワーカホリックの人や心身の健康に影響が出るほどの過剰なダイエット(摂食障害)に夢中になる人もいます。そう考えると、依存症は特殊な人だけがなるものではないことが分かります。

――ただ、誰もが問題行動を起こすわけでもありません。

斉藤:そうですね。アルコールやギャンブルなどは、ちょっとした気分転換や趣味程度に楽しむなら許容範囲です。しかし中には、ほどほどにできなくなる人もいます。お酒も度を過ぎれば体を壊し(身体的損失)、出費がかさみ、生活が破綻(経済的損失)します。必要以上にのめり込んでしまった結果、借金を重ね、時に家族や友人まで巻き込んでしまったり、仕事まで失うなど(社会的損失)、多くのものを失ってしまうのが依存症の怖さです。つまり優先順位が逆転してしまうのです。

また、何かに依存するのは、「だらしないから」「意志が弱いから」とよく言われますが、それは明らかな偏見です。ストレスが発生したときに、自覚的に対処することを「コーピング」と言いますが、「何かに依存すること」もストレスコーピングの一つ。仕事や人間関係がうまくいかず誰にも相談できない、夫婦の問題を抱えている、大切な人を失ったなど、誰でも経験する出来事が引き金になって、依存症へと踏み出す人は少なくありません。

仕事・家庭でのストレスが性依存症の引き金に!?

――反復する痴漢行為や盗撮、児童への強制わいせつといった性犯罪までも、依存症(嗜癖行動)としての側面がある。そうした認識を持っている人は、まだ少ないのではないでしょうか。

斉藤:そうですね。例えば、満員電車の中で、女性にわいせつ行為を繰り返す痴漢は、性依存症の一つであり、行為・プロセス依存に陥っている状態です。世の中には、痴漢は「性欲が強い人がするもの」「モテない男性がするもの」という思い込みがあると思います。しかし、加害者に聞いてみると、必ずしも痴漢行為の際に勃起するわけではないし、問題行動の前後で射精を伴わない人も多い。つまり、性欲が強い人が起こすのではないと言えます。その背景には、ストレスがあり、日本社会特有の男尊女卑的な価値観がある、と私は考えています。痴漢は、生まれながらに痴漢なのではなく、社会の中で痴漢になっていくのです。つまり学習された行動といえます。

――依存症は社会問題でもあると……。斉藤さんたちの調査では、痴漢をする人は、四大卒、会社員、妻子持ちが圧倒的に多いそうですね[注1]。この事実には、ショックを受ける人も多いと思います。

斉藤:そうなんです。言ってみれば、痴漢をする人はごく平凡な男性で、一見すると、女性に乱暴しそうにない人ばかり。だからこそ、彼らは匿名性の高い満員電車に紛れ込んで、犯罪行為を繰り返しやすいともいえますね。

[注1]性犯罪者を対象にした再犯防止プログラムの受講者への調査(榎本クリニックが実施)より

斉藤:ある男性は、「電車の中でたまたま女性に触れて、その温かさや柔らかさに衝撃が走った。日々のストレスの中で忘れていた、人間的な感覚が戻った」と話しています。たまたま相手は気づいていなかったために、痴漢行為が成立してしまった。まるでビギナーズラックのような感覚です。そこから毎日少しずつ"スキルアップ"し、「今日で最後にしようと思いながらも、そのスリルとリスクが織り成す一連のプロセスがやめられなくなった。それしか自分には優越感や達成感を得られる方法がなかったのかもしれません」と話しています。最初はなんとなくから始まりますが、繰り返すうちに当たり前になっていき頭の中に条件反射の回路が出来上がるのです。

普段はイクメン、どこかで優越感を求めずにいられない

――ストレスのはけ口として、痴漢がある。生きがいのようになってしまっているわけですね。とはいえ、ストレス対処法は、世の中にたくさんあります。趣味やスポーツなどで発散することは難しいのでしょうか?

斉藤:痴漢行為にハマる人の多くが、職場では過剰なまでに従順な労働者であり、家庭では真面目なイクメンだったりします。また、生活のほとんどが家庭と仕事の往復で、ほかに趣味や依存先を持たないために、実は自分の居場所がないという人も多い。彼らは、常に自分を抑えているために誰にも相談できずストレスをため込んでいます。「上司に罵倒された」「妻に無視される」「子どもが登校拒否している」などどん詰まり状態でうっぷんがたまってきたときに、自分よりも弱い存在に痴漢をすることで唯一、優越感を感じられる。支配欲や征服欲が満たされ、何ともいえない達成感を得られる。結果、ストレスが解消され自分自身のパーソナリティが安定するというわけです。それらは、「いじめ」によって得られる感覚と、よく似ています。

――痴漢行為は、いじめの構造にも似ているというのですね。もう少し詳しく教えてください。

斉藤:ストレスは負荷ですから、人間は極限まで追い詰められると、自責感にさいなまれ攻撃性が自分自身に向いたり、自暴自棄になったり、他者に攻撃的、暴力的になったりして自分自身を取り戻そうとします。

例えば、直接人をいじめないにしても、「自分は大多数のグループに属しているとき、マイノリティを批判したり差別したりすることで自分を安心させる」「優越感を覚えることで、ストレスに対処する」というような心理的なメカニズムは、多かれ少なかれ誰もが普遍的に持っています。痴漢の根っこにも、女性や弱い立場の人への支配欲、優越感があると思います。

――なるほど。冷静に考えれば、痴漢はハマればハマるほど社会的損失や経済的損失が大きい。なのに、やめられないのはそういう理由なのですね。だとしても、「自分の家族が同じ目にあったら……」とは、想像しないのでしょうか?

斉藤:痴漢をしている人の中には、「自分の身内が性暴力被害にあったら、絶対に許さない」と言う人がいます。一方で、自分自身の「加害者性」や被害者への思いは抜け落ちています。性暴力に耽溺している人たちには、自分の行為を正当化する「認知のゆがみ」があるのです。例えば、痴漢をする人は「女性専用車両に乗っていない女性は、痴漢されたいと思っている」と都合よく考えたりしています。問題行動を繰り返していると、この認知のゆがみも相関的に強化されていきます。

また、加害者の男性が被害者の恐怖を想像できないのは、男性が性の対象として消費される機会が圧倒的に乏しいからでしょう。女性ほどは性暴力をリアルに、身近に怖いと感じた経験がない。学習していないので分からないという部分もあるのだと思います。

ちなみに、万引き依存症は女性が多いのですが、主たる理由は金銭的価値のためではありません。孤独感やストレス、家庭内での性別役割分業やケア労働などの人間関係などが背景にあることが分かっています。彼らもまた、「レジが混んでいたからお金を払わないで帰った」「人生、損ばかりだから盗ってもいい」という、認知のゆがみを持っていることが多いです。

――最近では、芸能人の薬物依存がニュースになることも多いですね。私たちは、日々ストレスにさらされているわけで、誰もが依存症になり得る。依存症は身近な問題であると捉え、正しい対処法を身につける必要がありそうですね。

斉藤:おっしゃるとおりです。繰り返しますが、誰一人として「絶対に依存症にはならない」とは言えません。依存症の怖いのは、社会からどんどん孤立していくということ。孤立していくと、さらにストレスが大きくなり、それが引き金になりさらに悪循環のスパイラルから抜け出せなくなっていきます。

――ありがとうございました。次回は、依存症を予防するためのストレス対策について詳しく伺います。

(ライター 及川夕子)

斉藤章佳さん
大森榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士。アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにて、約20年にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・性犯罪・DV・クレプトマニアなど様々なアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で、現在まで2000人以上の性犯罪者の治療に関わる。近著に『男が痴漢になる理由』『万引き依存症』(ともにイースト・プレス)がある。

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