店を間借り「ヤドカリ」カレー 昼だけ会える挑戦の味
バーなどが営業時間外の昼間、店を間借りして営業するヤドカリ型のカレー店が、東京で話題を集めている。出店の初期費用がかからないため、挑戦心あふれる味を考え出して提供でき、個性が花開いているのだ。
大阪発の文化 東京に広がる
ヤドカリ営業は、もともと大阪で独自のカレー文化として発達した手法だ。味の挑戦者たちは、狭い厨房の店を間借りすることが多く、簡単に温めて出せるが奥が深いカレーに白羽の矢が立った。これが東京でも広がった。
地下鉄東高円寺駅から歩いて5分。東京都杉並区の「平日昼だけ」という名の店の和だしそぼろカレー(写真【1】)に驚いた。古時計や楽器、ドレスや食器に車輪など、雑貨をいくつもつり下げた雰囲気が魅力のカフェバー「シュワルツカッツ」を昼に間借りする。
和食店の経験がある小山直昭さんが選ぶご飯に載せる具材は、大葉に揚げ玉、かつお節など。追加トッピングも、たくあんやひき割り納豆、ミョウガやオクラなど和食材のオンパレード。だしの効いたトロリと透明感のあるソースにシャキシャキ食感のオニオンスライスがからむ。食感、風味の幅が斬新なだけではなく、やさしい風味の一口目を裏切るようにピリリと辛さがやってくる。
新宿区の新宿ゴールデン街五番街にある「エピタフカレー」はカウンター5席ほどのバーのヤドカリ店舗だ。月曜夜のバーテンダー、佐藤志樹さんの南インドカレー好きが高じて3年前に開店した。毎日3種類を出すが、2種類の相がけを選ぶ客が多い。
この日は定番のポークビンダルーとチキン(写真【2】)。ほのかに酸味のあるポークがうまい。さらっとしたソースにコクがプラス。さらに2種類を混ぜ合わせると味わいが変わるのがうれしい。
スパイスや具 色々と混ぜて冒険
「ヤドカリ店はリスクをあまり意識せず、新メニューで冒険できる。最近では鶏とホールスパイスをふんだんに使った『塩チキンキーマカレー』が好評だった」と佐藤さん。
金曜昼に新宿区の新宿御苑前駅近くで「カレハン食堂」を間借り出店するのが、カレー☆ハンター1号ことカレー研究家の白鳥友康さん。本業はIT会社の社長だが、スリランカ料理に魅せられて現地の五つ星ホテルのシェフに学んだ腕を振るう。
具材の色彩の鮮やかさに加え、辛さ、酸っぱさ、ほろっとしたりかみ応えがあったりする食感など、いくつものカレーを1皿に載せるのがスリランカカレー。この日の具材はトウガン、レンズ豆、オクラ、ビーツ、キュウリのスパイスサラダに大豆ミート、チキンなど多種多様(写真【3】)。「ルヌミリス(唐辛子のペースト)は辛いけれど混ぜるとおいしいよ」と白鳥さんに言われて混ぜ混ぜを繰り返すと、一口前と違う味が展開するので楽しい。
新宿区の地下鉄飯田橋駅前のバーを間借りするのが「飯田橋カリガリ」。スパイスの自家びきにこだわるカリガリ超スパイスカレーDX(写真【4】)はフレッシュなレタスやパクチーとともに味わうカレーだ。
タイと日本が融合する個性派カレーで人気の秋葉原「カリガリ」の系列店。同社社長の二木博さんは「場所貸しの店舗オーナーにとって着実に利益を出せる『間借りカレー』はビジネスとして有効。アーティストやタレントの卵らの若者に短時間で充実したアルバイトができる場を増やしたい」と話す。
最後に番外編。中央区銀座6丁目の「はるかなるカレー」はヤドカリ店から始めて自分の店舗を持ち、名古屋にも出店した。新潟県長岡市出身の店主、堀井悠さんのカレーは、実家でとれる新鮮な野菜をスープ系のソースに基本8種、トッピングでさらに9種、これでもかと盛り込む。
この日は夏に登場するキーマカレー(写真【5】)。揚げ、焼き、炊き、生のままなど調理法を変えたオクラ、ナス、ピーマン、ゴーヤーなどを彩りよく載せた一品。「とにかく地元の野菜を多くの人に食べてもらいたい。時には早朝、長岡の畑で収穫し、そのまま背負って店に帰って出すことも」と堀井さん。
ヤドカリカレーの多くの店は営業時間が変わることも多い。ツイッターなどで調べて出掛けよう。
(田中映光)
[日本経済新聞夕刊2019年8月24日付]
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