取締役会が変わる 上場企業3社に1社が女性を起用
上場企業で女性の取締役が増え1111人となり、千人の大台に乗った。このうち社外取締役が8割を占める。取締役会の議論に幅広い視点や柔軟な発想をもたらそうと、3社に1社が起用。社内での女性活用にとどまらず、取締役会にも多様性の波が広がっている。
企業統治助言会社プロネッド(東京・港)の調べによると、東証1部上場企業の取締役のうち女性は1111人(5.7%)で昨年から5割以上増えたもよう。社外取締役は80%、社内は20%となる。女性社外取締役を起用する企業は35.8%で、ガバナンス改革が始まる前の2011年の3.6%から10倍になった。
これまでは女性の経営人材の層の薄さから、複数の上場企業の役員をかけ持ちする女性が多かった。こうした傾向に変化の兆しが出ている。
社外役員(社外取締役と社外監査役)の女性の兼任状況をみると、4社以上かけ持ちする女性は1年前から3人減り、14人だった。「兼任への批判を受け、企業が他社と重ならないように女性役員の人選を進めた結果」とプロネッドの酒井功社長はみる。
主な経歴をみると、弁護士(242人)、大学教授(180人)が依然多数派だが、企業経験者も67人と前年の38人から大幅に増えた。「経営者人材は企業の奪い合いの状況」(酒井社長)
起用が目立つのは大企業だ。売上高1兆円以上では75%が女性社外取締役を起用しており、前年から12ポイントアップした。100億円未満の企業は15%にとどまる。
売り上げ規模が大きい企業は海外に事業展開する傾向が強く、海外の機関投資家や株主も多い。外国人投資家はガバナンス状況を投資先選定の入り口にしており、企業側も投資マネーを呼び込むためには、多様性への配慮を示す必要がある。
今年から複数の女性社外取締役を起用した企業をみると、清水建設や三井化学、アステラス製薬など幅広い業種が並ぶ。りそなホールディングスや七十七銀行、北国銀行など金融界でも進んだ。
一方、社内の生え抜きの女性を取締役に登用する動きも出てきた。東証1部で女性社内取締役を選任している企業は191社(221人)を数え、ほぼ10社に1社だった。
最多はレナウンの3人で、パソナグループや大和証券グループ本社など28社が2人で続く。レナウンの3人は全て親会社の中国企業の幹部だ。
大和証券グループ本社は今年女性社内取締役を1人増やした。新任の花岡幸子取締役は中核子会社の大和証券で投資情報部長などを歴任した。大和証券グループ本社は「企業会計に関する知識を備え豊富なマネジメント経験を持つ」と起用理由を説明する。
英国で発足した、女性役員比率の3割達成を目指して企業のトップが参加する「30%クラブ」が国内で5月から始動したところ。大和証券グループ本社でも多様性は「喫緊の課題」とし、日比野隆司会長らが参加する。
海外勢は女性の役員起用だけでなく多様性でも先を行く。三菱UFJ信託銀行の内ケ崎茂・HR戦略コンサルティング室長は「海外企業は年齢や世代を超えた協働体制を確立することに配慮し、多様な議論を取締役会にもたらす工夫をしている。伝統的に高齢男性で固めてきた日本企業にも見習う点が多い」と話す。
会社役員養成機構 代表理事「まず中間管理職から育成を」
女性取締役を増やすために何が必要か。会社役員育成機構のニコラス・ベネシュ代表理事に聞いた。
――日本では女性取締役は依然少ない。
「欧米諸国だけでなく、トルコ、インドなどに比べても圧倒的に少ない。日本の上場企業で、中間管理職に女性が少ないという現状をそのまま映し出している」
――日本で女性取締役を増やすための策は。
「幹部候補となる中間管理職の女性を育てることが何よりも大事だ。子育て支援、柔軟な働き方、男性の家事参加などの改革が欠かせない。自社で女性管理職の増加を阻む障害物は何か、古い慣習にこだわっていないか、考え直す必要がある」
「日本企業はそもそも取締役の候補の数自体、少なすぎる。女性に限らず、あまり角の立つことを言わないような人を選ぶ傾向があり、多様性が確保されているとは言えない。女性も含め、もっと幅広い基準で候補を見るべきだ」
「単に女性比率を上げるという数値目標のために『女性の取締役を1人置けばよい』と安易に考えては意味がない。ダイバーシティの良さとは、様々な背景を持つ人々の議論から革新的なアイデアが出て、利益という成果につながることだ。そのために人材という資源をどう生かすのか。重要な視点が欠けたまま、数にこだわり女性取締役を登用することを危惧している」
――日本で女性取締役が増えるために女性に必要なキャリア形成とは。
「若いうちに海外や本社以外のポストなどで働くこと。出産後にはなかなか難しくなる仕事を早めに経験することで幅が広がる。またある分野の専門家として必要不可欠な存在になるのも良いだろう」
(聞き手は関優子)
外国人登用これから ~取材を終えて~
女性取締役は順調に増えつつあるが、多様性のもう一つの柱である外国人社外取締役の起用はそれほど進んでいない。外国人社外取締役は114人と1年前の102人から1割増えたものの全体に占める比率は1.9%と0.1ポイントアップにとどまった。
米半導体大手インテルは取締役の半数がダイバーシティ視点での人選。小売り大手ウォルマートでは50歳未満から70代までほぼ10歳刻みで適任者をみつけ取締役会に迎えている。人種、年齢、性別など様々な違いに配慮するのは、人種差別などの問題を経験してきた米国社会の事情も大きいのだろう。
日本はようやくジェンダーに風穴をあけつつある段階。欧米並みの「開かれた取締役会」を実現するにはまだ時間がかかりそうだ。
(木ノ内敏久)
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