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天の時、地の利、人の和――。大事を成すリーダーに共通するのは、この3つの条件を兼ね備えていることだ。とりわけ大切なのが「時」。料理に旬があるように人にも旬がある。自分の旬を知り、その時間軸のなかで仕事を進めていく能力はリーダーに最も欠かせない資質だ。角栄もその資質を兼ね備えた1人。自分の旬を知り、エネルギーが最も充実した瞬間に成すべきを成した。『田中角栄のふろしき』(日本経済新聞出版)から見てみよう。角栄にリーダーの条件を学ぶ7回連載。6回目は「天の時を知る」。 =敬称略

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1972年。角栄は日中国交を正常化し世界をあっといわせた。来日したジャイアントパンダの「カンカン」と「ランラン」に庶民は沸き、角栄はまさに時の人、破竹の勢いだった。

「決断と実行」を掲げて政権の座について4カ月。角栄は言葉通り日本と中国との間の戦後最大の懸案処理を決断し、それを実行してみせた。そして迎えた所信表明演説。首相として初めてまとまった考えを表明するとあって日本中が注目した。

このときの角栄なら何を言ってもよかった。一言一言が様(さま)になった。

そして打ち出したのが「国民福祉」だった。歴代の首相が力を入れることが多かった日米関係はさらりと流し、「福祉元年」をぶち上げたのだった。これこそが戦後初めて庶民階級から出てきた首相である角栄が、成すべき仕事だった。

「豊かな国民生活を実現するために欠くことのできないものは、社会福祉の充実であります。今日までの経済成長の成果を、思い切って国民福祉の面に振り向けなければなりません」

経済を縦に回す「大黒経済」

ダミ声を振り絞りこう語ったうえで「総合的な老人対策」の実行を国民的課題としながら老後の生活の支えとなる年金制度、寝たきり老人の援護、老人医療制度の拡充を推しすすめていくと述べたのだった。

「社会的弱者への救済」「国民の格差の解消」――。

角栄が政治家を志した原点だった。仮に東京のビジネスマンなら丸の内で倒れれば、救急車がやってくるまで10分もかからない。そのまま近くの大病院に運ばれ、手厚い救命措置を受けられる。しかし山深く雪に覆われた地域ではそれがままならない。1億人の日本国民が一丸となって高度成長を達成したのに、そんな不平等が許されていいのか――。

経済は上澄みだけで水平に回してはならない。縦に回すのだ。

資本家から経営者、工場労働者や八百屋、土木作業員まで、上から下まで縦の軸で回していく。これが角栄の目指した「大黒(だいこく)経済」だった。

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