時には関係も切る 禅に学ぶコミュニケーションの極意
仕事やプライベートで人付き合いの悩みは尽きない。そんなときは「図太く」なるのがお勧め。「禅僧はみんな図太い」と言う住職に、ヒントを聞きました。
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「人間関係で、傷ついたり悩んだりするのは、繊細すぎるから」。こう話すのは、禅僧の枡野俊明(ますのしゅんみょう)さん。「どんなことがあっても、心を強く持っていられる"図太さ"があれば、ラクになります」。仲がいい人とでも、時には嫌なことがあったり、つらいことを言われたりする。その瞬間は落ち込んでも、すぐ開き直り、まあいいかと受け止められる。それが枡野さんの言う「図太さ」だ。
そんな図太さを身に付けるのに役立つのが、禅の教え。「毎日の暮らしのなかで実践していけば、心に自然と『図太さ』が育っていく」。難しいことではない。普段、気にしすぎていることをやめるだけ。今回、9つのヒントを教えてもらった。少しずつでいいので実践してみて。
「でも」は、相手を否定する言葉。自分と思いが違っても、「はい。そうですね」といったん認めた上で、自分の意見を言えばいい。また自分自身に対して使うと、自分が動かない言い訳に。「でも」を封じて、前向きに生きることがうまくいく秘訣です。
この人と付き合えば得するか……と考えるのは、人間の業のようなもの。損得にこだわると心は窮屈に。だったら、損得ではなく「縁」と考える。いただいた縁を生かし切るようにすれば、おおらかな人間関係になれます。
自分ばかりどうでもいい仕事をやらされる、あの人は私のことを理解してくれない─。仕事でも人間関係でも、受け身で考えているうちは改善しない。「何くそ」という精神で主体的に、自分を理解してもらおうと振る舞えばどんな状況も変えられます。
怒りに怒りで対応するのも、シュンとしてしまうのも×。こちらが取り合わず、和やかな表情=禅語の『和顔(わげん)』=で受け止めれば、しばらくすると相手は独り相撲をとっているようで、みっともないと気づくはずです。
いくら先読みしても、人付き合いは、あらかじめ決めた通りにはいかないもの。緩く、ざっくりと考え、あとは空気に任せて対応する。人付き合いは空に浮かぶ雲のように、風に任せてさまざまな方向に流れていいのです。
禅語の『露堂々(ろどうどう)』は、どこも隠すところがなく、ありのままの自然な姿が現れていること。弱みを隠しながら生きると、どうしてもおどおどしがち。堂々とありのままを見せて、心晴れやかに生きるほうが魅力も上がります。
自分の短所には気づきやすいが、改善するのは大変。人には必ず長所がある。長所を伸ばすほうがずっと効果が上がる。短所には目をつぶり、長所にフォーカスする図太さがあれば、あなたらしい魅力を引き上げられますよ。
求めすぎない。これが人間関係をうまく運ぶ極意です。完璧を求めなければ、他人に寛容になれる。自分が求めているものをすべて備えている人は、どこにもいない。上司や部下はもちろん、親兄弟や夫、子供、自分だって完璧にはなれません。
最も心を窮屈にするのが人のしがらみ。気が進まないのに出席する会合や人付き合いは惰性で続けているようなもの。すっぱり見切ることができるといいのですが、難しいなら、「3回に1回だけ出る」などと決めるのがお勧めです。
私たち、人間関係を見直してラクになりました!
実際、どうやって人付き合いを見直せばいいの? 日経WOMANの読者が人付き合いをやめたり、時間をかけなくなったりしてよかったことを紹介します。
ランチと年1~2回の飲み会だけに
「同僚とはランチのコミュニケーションで十分。飲み会も年に1~2回参加するだけに。その分、趣味に費やす時間と睡眠時間が増え、幸福感が増した」(49歳・通信・事務)
インスタグラムのフォロー先を整理
「キラキラママをアピールしたり、ポイ活をアピールするインスタのアカウントをフォローするのをやめたら、本当に欲しい情報だけが取れるようになった」(33歳・建設・開発)
年賀状を毎年減らす
「元日に年賀状が来なかった人には、自分からも翌年以降は出さないと決めている。おかげで年賀状を出す人を毎年減らすことができた」(32歳・教育・受付)
食事だけの友達とさようなら
「食事を一緒にするだけの友人との付き合いをやめた。ムダにしていたお金と時間を自分のために使えるようになり、貯蓄もでき、ストレスがなくなった」(46歳・IT・サポート)
休日のオフ会を減らす
「毎週のように参加していた休日のオフ会の頻度を見直して削減。集まるまでの楽しみ度がアップし、日常の家族団らんも大切にできるようになった」(35歳・教育・事務)
連絡先を教えない
「ごく少数の人にしか連絡先を教えないようにしている。そうすることで自分が意義を感じられない、ストレスのある付き合いを自然に減らせた」(34歳・公務員)
飲み会は1次会までかランチに変更
「気の進まない飲み会は1次会まで。気の進まないディナーもランチに変更。全部断るのはハードルが高いので、義務は果たしつつ、楽になれた」(45歳・サービス・事務)
この人に聞きました
曹洞宗徳雄山建功寺住職。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした、「禅の庭」の創作活動も行う。主な著書に『傷つきやすい人のための図太くなれる禅思考』(文響社)、『心配事の9割は起こらない』(三笠書房)など。
(取材・文 日経WOMAN編集部)
[日経ウーマン 2019年4月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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