「行き当たりバッチリ」の経営とは
「超高度デジタル社会に突入している現代は、テクノロジー進化のスピードが早く、前年度に策定した事業計画が通用しなくなることも珍しくない」。著者はこう指摘します。こういう環境では「計画的」な弥生型より、「直感的」な縄文型が向いているようです。もちろん、直感といっても当てずっぽうではありません。市場の潜在ニーズを見抜き、売り上げをもたらすビジネスモデルを描いて迅速な行動でチャンスをつかむのです。それを著者は「行き当たりバッチリ」な経営と表現しました。この斬新な方法論の詳細については本書を参照してください。ここでは事業計画を放棄することのメリットについて紹介します。
(第2章 原則1 事業計画を手放す 116ページ)
あの超有名なグローバル企業が「縄文型」?
「縄文的」なビジネスのエッセンスを含んでいる会社は、具体的にどこでしょうか。著者は、コーヒーチェーンのスターバックスを挙げます。同社が自然な形で「ご縁とともにビジネスを紡ぐ」という基本姿勢を取っていることに注目しています。縄文型経営の特徴のひとつが「ご縁」なのです。すでに触れたように縄文人は「自然が広がるハラとの共存共栄」を実現していました。自然の恵みに感謝していた縄文時代の営みを現代のビジネスに置き換えると「一つ一つの出会いに感謝しながらご縁を紡ぐ」ということになります。
スターバックスが企業ミッションと行動指針を定義した「Our Mission and Values」の中で、「一杯のコーヒーを通じて、お客様一人ひとりと誠実に向き合う」という指針が極めて重要だと著者は指摘します。社員やスタッフによる行動がもたらす、顧客や地域社会との「つながり」が同社の強みなのです。
目の前のお客に誠実に向き合い、一期一会を大切にすることで、結果としてビジネスを大きくする――。このような経営のあり方は、世の中の様々な業界を見渡してもなかなか見当たらないと著者は言います。
縄文と弥生のバランスを取る
縄文社会には「直感的」に加えて「協調的」「フリーダム」「感謝を大切にする」といった長所があります。こうした要素を、現代のビジネスにうまく取り入れていくことが大事だと著者は説きます。ただし、極端に振れないように注意しましょう。重要なのは弥生型とのバランスです。「これからは縄文式ビジネスで一本化しようとしているわけではない」と著者自身も記しています。
本書を手に取ると同時に、旅先などで縄文遺跡に足を運んでみてはいかがでしょうか。あるいは図書館で関連書籍や図鑑を眺めるのも良いと思います。博物館で縄文土器を見るのも楽しそうです。そういう行動もまた、自分の商売のやり方や、会社での仕事の進め方を見直すきっかけになるかもしれません。
◆編集者からのひとこと 日本経済新聞出版社・雨宮百子
昨年から今年にかけて「縄文ブーム」が到来しているようです。映画やグッズ、特別展……。人気の背景には、縄文時代の文化のユニークさがあるのでしょうか。本書では、現代の主流である管理や競争を中心とした経営を弥生時代、自由や協調を重視した経営を縄文時代に例え、これからの企業のあり方や個人の働き方を模索します。本書をつくるにあたり、歴史の勉強をするため、縄文研究の第一人者である国学院大学名誉教授の小林達雄氏にも沢山のアドバイスをいただきました。自然との協調、知ればしるほど縄文時代は奥が深く、現代社会が学ぶべき要素がいくつもあるように感じました。四季を感じる機会が減り、気候の変化を肌で感じることが多くなった今日こそ、歴史に学んでみてはいかがでしょうか。