美しい渓流で見た ハリガネムシがつむぐ生態系の物語神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉(最終回)

やっぱり、「救いがなさ過ぎる」ものらしい。カマドウマにはまことにご愁傷さまだ。それでも、ハリガネムシの寄生のせいでカマドウマが絶滅してしまわないようにはできている。

「ハリガネムシに感染されるカマドウマって、川から50メートルも離れるとガクンと少なくなるんですよ。水生昆虫の分散に依存しているので。だから、その範囲の外に母体があるような個体群やったら、個体群としては大丈夫。あるいは、カマドウマ2種がすごく競争しているような系だったとすると、これは生態学の理論でよくあるんですけれども、片方が多くなってくると確率的に感染が高くなるので、川に飛び込んで殺されるのが増えると。そうすると今度は、もう片方の種が増えてくるとか──」

やっぱり個体レベルでは救いがなさすぎる話である。いや、ほんの少しなら救いめいたことはあるかもしれないと佐藤さんはいう。

「どうせ寄生されているんだったら、最悪、早めに飛び込んで、早めにお尻から出ていってもらったら、もう一度人生をやり直せるかもしれないみたいな、そういう考えを言っている研究者はいます。バッドな状況での協力があるかもしれない、と。そうすると、いくらこのおなかの中がハリガネムシで覆いつくされたとしても、3個ぐらいは卵持てるとか、矮小(わいしょう)化した精包は持てるとか。飛び込んだとしても、ハリガネムシを出してからもう一回陸域に上がることさえできれば、少しは次の世代に自分の子供を残せるかもしれないという」

うーん、これを救いというのには、ほど遠い気がする。そして、ぼくにしても、当面、何かでカマドウマを見るたびに、「お、エネルギーの流れが」などと最初に思うことだろう。

そして、今回のストーリーの主役であろうハリガネムシに再登場ねがおう。

宿主の行動を操作する恐ろしい奴だが(このとき、我々が感じる恐ろしさは「寄生されたら嫌だ!」に尽きる)、今回のフィールドで何匹も見ているうちに印象が変わってきた。

手のひらにいるハリガネムシ

「ハリガネムシって、カマドウマほど嫌がらない人の方が多いんですよ」と佐藤さん。「実物を見せると、『ああ、これか』と触ったりできる人も比較的多いんですけれども、カマドウマは見るのも嫌とか言われてしまいます」

本当にカマドウマはどこまで行っても嫌われており、救いがない。ぼくは、結構格好良いと思っている、ということを、あらためて強調しておこう。それが彼らになんの慰めにもならないとは承知しつつ。

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