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不気味でも生物の半分近くは寄生虫 生態系の要だった

神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉(5)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
 文筆家・川端裕人氏がナショナルジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」の転載を始めました。川端氏が最先端の研究室を訪れ、じっくりと研究内容を深掘りする人気コラムです。今回は、不気味なのに目が離せない寄生虫がテーマ。探究心が高まる夏休みシーズンにぴったりです。

◇  ◇  ◇

日本の紀伊半島の川で、渓流魚が1年間に得るエネルギーの6割を寄生虫ハリガネムシに行動操作されたカマドウマから得ていたという佐藤拓哉さんの研究は、世界的にも大いに評判になった。

というのも、ちょうど寄生虫が生態系にあたえる影響について注目されている最中だったからだ。

「僕が論文を出したのは2011年だったんですが、2008年に科学雑誌のネイチャーに、寄生虫が生態系の中でものすごいバイオマス、生物量を誇ってるっていう論文が出て、注目されました。前にも世界の既知種の半数近くが寄生虫である! という推定結果が出されて、寄生虫が生態系の中で大きな役割を果たしている可能性があるということ自体は言われていたんですが、はじめて量的にも大きな割合を占めることを示したんです。カリフォルニアの塩性湿地などで徹底的に生き物を集めて、その生き物に宿ってる寄生虫を徹底的に掘り起こして重さを計ったら、その湿地にやってくるすべての鳥を合わせたより重かった、と」

寄生虫は、宿主に宿るものだから、いくらなんでも「量」としては大したことないのではないかと思うのだが、とにかく徹底的にやってみたら、「鳥よりも重い」というバイオマスだったというのは衝撃である。それだけのものがいるのなら、生態系への影響は計り知れない。そこに、また別のアプローチで「どの程度の影響か」を明らかにしたのが佐藤さんだった。

「2008年のネイチャー論文は、寄生虫を考慮した重さの分布(生態系ピラミッド)がどうなってるかっていうことを見ていたわけですが、次に大事なのは、寄生虫を入れた時に生態系の中でエネルギーがどんなふうに流れてるかっていうことです。そういうときに自分の研究を通して、エネルギーが森と川をまたいで寄生虫のおかげで回っていると示せたのはよかったですね。年間の6割になるようなものを流しているって量的に出せたので、海外でも結構インパクトがあって。そのあとに出た生態系寄生虫学(Ecosystem Parasitology)の教科書にも載っけてもらってるんですけど」

もちろん日本での反響も大きかった。学会などで発表すると、様々な情報が集まってくるようになった。

「──発表を聞いた他の研究者が『ゴミムシに寄生してるのを見た』などと教えてくれるんです。ゴミムシって甲虫の仲間で、カマドウマはバッタの仲間なので、えらい分類群違うやつに寄生できるんやとまずびっくりして。で、さらに話してると『僕は秋に見た』『こっちは春だ』とか。これは一体何なんだろう。ハリガネムシが起こすエネルギーの流れがすごいでかいんだとすると、森と川の生態系がつながるタイミングに重要な影響を及ぼしてるかもしれないということで、全国の研究林を順番に回って、『ハリガネムシがいつ川に落ちてくるか、調べてもらえませんか』と頼んで回ったんです。その後とれたのを送ってもらったのを見ると、きれいな結果になりました。北海道のサイトは春の6月7月にピークをもってハリガネムシが動いていて、本州だと東北であろうが近畿であろうが、秋に起こるんですね」

「──寄生虫が宿主に寄生するときって、その宿主からできるだけ搾取しないともったいないので、繁殖ギリギリまでは寄生しているようです。北海道では宿主がゴミムシでして、春先に産卵するので、そのギリギリまで搾取して川に捨てると。本州側にやってくると宿主はカマドウマがメインなので、秋のギリギリまで搾取して川に捨てるっていうようなことをして、北海道との境界できれいに分かれるんじゃないかなと」

ハリガネムシが作り出すエネルギーの流れの大きさ、さらに地域による時期の違いなど、様々な要素が明らかになってきている。これらを知るだけで、なにか森と川という場が違って見えてくる研究だ。

では、今後、佐藤さんは、どのような方向に研究を進めるのか。

まず生態学者としての本懐はむしろフィールドにある。

「今、川の近くにマレーゼトラップというのを仕掛けて、水生昆虫の成虫を捕っています。ハリガネムシの生活史を詳しく記述しながら考えないと、もっと長いスパンでの森とかのつながりってわからなくなってきているので。あれでうまくハリガネムシに感染した水生昆虫の成虫が捕れるようだと、森中にあちこちに設置して、季節的にどんな水生昆虫がどのくらいハリガネムシを森に連れて行っているのかを調べたいなと思ってるんです」

たしかに、森と川をつなぐエネルギーの流れは、陸から川へ(カマドウマの飛び込み)というのもあれば、逆に川から陸へのパターンもある。そもそも、カマドウマは、羽化して川から飛び立った水生昆虫を食べてハリガネムシに感染する。こういった、複雑な系の背景にある、基本的なつながり方を解明するのは、それこそ生態学の本分であろう。

「野外で大きな実験するとメンテナンスも大変だから、せいぜい数カ月とかで今まで終わってるんですけれども、もっと長い時間スケールで、生物群集とか生態系が安定しているのかどうかを知りたいんです。例えば、疑似的な森と川を設定して、全部ビニールハウスで囲って、そこにハリガネムシがいたりいなかったりするような状況をつくり出すと。それで、ハリガネムシがいることで森と川のつながりが時間的に安定するかどうかみたいなことを知りたいんですよ。それをできるところを探しています」

一方で、分子生物学的な手法の発展から、生態学が今までの枠に留まらなくなっていることも指摘する。

「今までの生態学は、個体や個体群、いろんな種の個体群が集まって生物群集といったあたりの、どっちかというとマクロな相互作用を解明しようとしてきたんですが、今の生物学って遺伝子レベルまでどんどんミクロに見ていくじゃないですか。だから、僕らが今まで見ていた個体とか個体群とか生物群集レベルのマクロな生き物のつながりが、遺伝子レベルでどんなふうに規定されてるのかっていうような、生物学の階層をつないで全体を理解するような方向にも行きたいと思っていまして。実は、まさにハリガネムシがどういう遺伝子を使ってタンパク発現を規定して、宿主の行動を操作して、どういう日時や場所にカマドウマを飛び込ませるか。その先で渓流魚がどういうふうに資源を利用するかとか、そういうつながりが分かるようなデータを積み重ねていきたいというのが、もう1つの方向性ですね」

(2014年11月 ナショナルジオグラフィック日本版サイトから転載)

佐藤拓哉(さとう たくや)
1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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