黒須社長自身の経験で考えても、現場の負担は大きかったという

白河 ご自身も店舗経験が長かったとのことですが、やはり現場の負担は大きかったと感じますか。

黒須 早朝深夜で突然空いたシフトの穴埋めを自らしないといけない負担は相当だったと思います。また、365日24時間稼働しているということは、常に機器の故障やなんらかのアクシデントが起きる可能性が頭の片隅にあって、精神的なストレスにもつながります。そういった負担から少しでも解放してあげられないかとは、ずっと考えてきましたね。

白河 ご自身にもそういうご苦労の経験があったのですね。24時間営業が従業員に与える心理的な負荷も考えるべきなんですね。

黒須 店長時代には、深夜に店から緊急の電話がかかって跳び起きることが、年に数回はありました。店休日に関しても思いきって「元日には営業しない」ということも始めまして、お客様にはご不便をおかけしているのですが、従業員から好評ですね。

白河 これも大英断ですよね。元日といえばファミレスのかき入れ時であるはずなのに。

黒須 それまではずっと元日営業が当たり前でしたので、社内からも驚きの声があがりました。「初めて元日に家族と初詣に行きました」とか「元日に初めて、親戚に新年のご挨拶ができました」といった声が結構聞かれて、うれしかったですね。従業員の満足がお客様の満足につながる、という信念をぶらさないことが非常に大事な点だと思っていました。

白河 そしていよいよ成果を伺いたいのですが、「7億円の減収になる」という見込みは大きく外れたのだとか。

黒須 逆に7億円の増収になるという結果でした。これには私もちょっと驚いたのですが、明らかな変化は現場から起きていました。店舗を回ると、店長や料理長から「ありがとうございます」と声をかけられるんです。「その分、お客様にはより良いサービスと料理を提供していきます」と。まさにESとCSのサイクルが少しずつ回ろうとしているという実感はすぐに持てました。

白河 売り上げが増えたのはどういう理由だったのでしょうか。

黒須 営業時間短縮後に起きたのは、ランチタイムとディナータイムの売り上げの増加です。それまで早朝深夜時間帯に来てもらっていた働き手が、単価の高いランチやディナーの時間帯に入ってくれるようになったことで、サービスの価値も上がったのではないかと思っています。

例えば、同時期に商品戦略として投入したメニューに「ギャザリングプラッター」という商品がありまして。これはワンプレートにステーキや海老などを盛り付けた一皿2800円ほどする商品で、ファミレスの価格帯としては相当高いはずなのですが、お客様から継続的なご支持をいただけているんです。高価格帯の商品というのは、価格以上の価値を見いだしていただけなければ、リピートはしていただけません。17年の投入以来、この商品が毎回好評をいただいているというのは、我々が提供できている付加価値が向上しているという印ではないかと捉えています。

白河 たしかに、心から満足できなければリピートはできない価格ですよね。

黒須 価値の考え方について、私はよく社内で「V=QSCA/P」という方程式を話すんです。それぞれ、Value(価値)、Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(清潔さ)、Atmosphere(雰囲気)、Price(価格)の略なのですが、これらQSCAをすべて掛け合わせた総量が価格を上回らなければ、お客様に伝わる価値にはつながりませんよ、という意味です。今回の増収の結果は、価値を高められた成果だと自負しています。

白河 もともとロイヤルホストはファミレスの中でも高価格帯で差別化されていたと思いますが、より差別化が進んだということでしょうか。

黒須 そうですね。お客様もかなり使い分けをされているのではと思っていますが、私どもの店には比較的年齢の高いお客様が多く、ご夫婦やお孫さんを連れての三世代でゆったりと食事を楽しんでいただけているシーンはよく見られます。

(次週公開の後編では、働き方改善のためのIT(情報技術)活用、女性社員が働きやすい環境や制度の導入、外国人従業員の雇用などについてもお伺いします)

白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(ライター 宮本恵理子)