社長になってからも店舗を頻繁に訪問し、従業員と会話するという

誰かが無理をするモデルは持続可能ではない

白河 ビジョンに照らし合わせた結果、24時間営業廃止の方向性が決まったということですね。

黒須 一方で、オペレーションする側の論理もありまして、やはり早朝深夜時間帯に働き手を集める苦労はずっと感じていたことでした。

白河 苦労されるというのは、具体的には何時から何時までを指しますか?

黒須 終電がなくなってから始発が動き出すまでの時間帯ですね。私自身も学生時代に3年間、ロイヤルホストでアルバイトをしていましたし、入社してからも店舗に長くいた「現場大好き人間」ですので、現場の従業員にどれだけ無理が出ているかはよく分かっているつもりです。

従業員と話すのも好きなので、社長になってからも、ちょくちょく店を訪れていまして、店長や料理長から様子を聞いていたんです。すると年々、「人が集まりづらい。特に早朝深夜は」という話が出てきていました。

白河 現場の声としても挙がっていたんですね。足りない分を埋めあわせる労力だけでも大変ですね。

黒須 実際、その時間帯に急な空きが出てしまった場合に代わりの人員が見つからないときには、店長や料理長が勤務時間を延長せざるを得なかったりするんですね。手前味噌のようですが、外食で働く人間というのは、「お客様に喜んでいただきたい」という思いが強いタイプが多いんです。その思いの強さゆえに、過剰に無理を抱えてしまう傾向はある。また、土日やお盆、正月といった、世間が休みの日に営業することが売り上げ増にもつながるという業界としての構造もあります。

白河 日本はお客様中心のサービス提供が得意といわれてきましたが、特に飲食業界では過剰なほどのサービス精神が求められがちですよね。

黒須 しかし、自分たちが無理をするモデルというのは決して持続可能とはいえませんよね。ですから、どこかで「無理を取り除く」という方向で転換をしないといけないと考え、私が社長に就任した16年からより本格的に営業時間改革を進めるようになりました。そのほうがむしろ、お客様へ提供できる付加価値が上がるのではないかと発想したのです。

顧客満足と従業員満足のバランスをどう取るか

白河 まさに発想の転換ですよね。多少無理をしてでもお客様を優先するのが当たり前だったスタイルから、無理を減らすことでサービスの質を高めていこうというスタイルへ。

黒須 はい。しかしながら、この判断は非常に難しかったですね。目の前の数字で試算すると、年間7億円の売り上げがなくなることが分かっていましたから。

白河 7億円は大きい! 営業時間削減によって売り上げが減るだけではなく、その時間帯に来ていたお客様を他店にとられるという心配もあったと思います。コンビニ業界に伺っても、やはり「うちが休めば、通りの向かいのライバル店に客を取られる。敵に塩を送るようなことはできないから、24時間営業廃止には踏み切れない」という話をよく聞きます。

黒須 CS(顧客満足度)とES(従業員満足度)のバランスをどう取っていくべきかのせめぎ合いですね。しばらく悩みましたが、「ESが向上した従業員は、きっとCSを向上させてくれるだろう」という判断で、大きな決断ができたと思います。

白河 これまでの日本のサービス業界ではなかなか踏み切れなかった決断ですよね。3年ほど前、政府の委員会で同席したスウェーデン企業の方が「お客様も従業員も幸せに」とおっしゃった時にとても新鮮な印象を受けました。日本は「お客様の幸せ」しか言わないので。

黒須 バランスはよく考えないといけないと思います。店休日も年間3日間に増やしたのですが、お客様には「せっかく行ったのに、営業していなかった」などとご迷惑をおかけすることになるんです。でも、そこにすべて答えようとしても、先ほど申し上げた付加価値の向上には必ずしも結びつかない。営業時間の総数を減らした分、ランチタイムとディナータイムにしっかりと満足いただける食事を提供することに集中する。ESとCSを同時に高めていく方法を探っていけば、理想的な姿に近づくのではないかと信じています。