多様な働き方と賃金のバランス
非正規雇用労働者が増加する中で、政府は働き方改革の目玉として「同一労働同一賃金」を掲げています。これは、同一企業・団体における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることを禁じるものです。
同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても、納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を個人が自由に選択できる社会を目指しています。
この同一労働同一賃金を含むパートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法の改正は、2020年4月1日から施行されます(中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日から)。なお、この法律で保護対象となるのは、パートや有期労働契約で雇用される労働者です。そのため、総合職と限定正社員など、同じ正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)間の待遇差については、対象となりません。
総務省「労働力調査」2018年平均(速報)によると、正規雇用労働者は3476万人、非正規雇用労働者は2120万人おり、非正規雇用者における女性比率は68.4%。女性は45~54歳が365万人(25.2%)、次いで35~44歳が307万人(21.2%)となっています。非正規雇用労働者に現職の雇用形態を選んだ理由を質問したところ、男女ともに「自分の都合のよい時間に働きたいから」という回答が最も多い結果となりました。多様な働き方のニーズは高まっているといえるでしょう。同一労働同一賃金の保護対象外となる正社員の中でも、育児や介護など様々な理由から多様で柔軟な働き方のニーズは近年高まっています。
非正規社員の賃金上昇は正社員には逆風?
欧州では、同一労働であれば、時間当たりの賃金を同じにするルールが確立されています。欧州諸国の賃金制度は、基本的に職務や職種ごとに賃金額を定めるいわゆる「職務給」が主流です。一方、日本は長期雇用を前提に、職務遂行能力を評価する「職能給」が広く採用されており、長く務めるほど能力・スキルも高まるという考えから、年功序列型賃金を形成してきた経緯があり、一筋縄ではいきません。
もともと欧州において、同一(価値)労働同一賃金とは、1951年に採択された国際労働機関(ILO)の「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」に見られるように、男女間の差別是正のためのものとして捉えられていました。
日本における同一労働同一賃金を見据えた最低賃金の引き上げは、人件費増に直結することは言うまでもありません。人件費増加により収益力が低下する企業では、賞与や昇給率など正社員の賃金への影響も避けられないという見方もあり、「正社員の給与が減るのでは?」という不安もあります。実際、人材会社アデコの調査では、大企業の5社に1社が正社員の基本給や賞与を減らす可能性があると回答。政府は同一賃金の指針で、労使合意のない正社員の待遇引き下げを望ましくないとしており、懸念が広がりそうです。