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女性らしさ貫きリーダー像示す 吉田晴乃さんをしのぶ ダイバーシティ進化論(村上由美子)

2019/8/24

女性として初めて経団連の役員を務めた吉田晴乃さん

G20大阪サミットの吉田晴乃さん。トレードマークのピンヒールにモードなパンツスーツで壇上に現れ、ウィメン20(W20)がまとめたジェンダー平等に関する提言書を安倍首相に手渡した。大舞台の翌日、6月30日に心不全でこの世を去った。55歳の若さだった。

この数年、女性活躍を官民挙げて推進する動きが高まった。それを象徴するかのように、経団連は2015年、吉田さんを初の女性役員に抜てきした。最初は戸惑いも感じたであろうが、彼女は女性リーダーのパイオニアとしての使命感に燃え、経済界における男女平等推進に尽力した。ジェンダー関連のイベント登壇者の常連となり、政府の委員会にも多数参加した。文字通り、日本の女性活躍のシンボルであった。

重要会議に彼女はいつも高さ10センチのピンヒールでさっそうと現れた。カラフルなデザイナーブランドスーツ姿の吉田さんは、灰色スーツの男性群の中で際立っていた。度肝を抜かれた男性も多かっただろう。しかし吉田さんは自分のスタイルを決して変えなかった。女性らしさを捨てることが、リーダーになる必要条件ではないと、自ら行動で示していたのだ。「男性的な女性リーダーがいくら増えても本当の意味で多様性は豊かにならないのよね」と。

吉田さんは男女雇用機会均等法が施行された時代に大学を卒業し、海外でキャリアを積んで日本に戻った。家庭と仕事の両立に苦労しながらも、シングルマザーとして一人娘を育てた。彼女は女性が家庭とキャリアの二者択一を迫られない環境の実現を目指していた。仕事のために自分が払った犠牲を、娘さんの世代が経験しなくてもすむ社会をつくることが、自分の責任であると感じていた。

ユーモアあふれる吉田さんとの会話は、笑いが絶えなかった。自宅で電話会議をしているとき、娘さんが見ていた映画「ターザン」の雄たけびが重要会議の場に響いてしまったというエピソードには、大いに笑ったものだ。同時に働く母親の一人として「あるある、そういう苦労」と妙に共感することも多かった。

孫との公園デビューという夢を実現する前に、吉田さんは逝ってしまった。しかし、家庭とキャリアの二者択一にならない社会への思いは、多くの人々に引き継がれるだろう。多様な生き方や働き方を、天国の吉田さんはピンヒール姿で応援してくれるに違いない。

村上由美子
 経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2019年8月19日付]

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