黒・赤・ピンク BBQを確実に盛り上げる色々な塩
魅惑のソルトワールド(32)
野外で大勢でワイワイと集まりたい時、まっさきに思い浮かぶのが「バーベキュー(BBQ)」ではないだろうか。大型連休が来ると、インターネットで「BBQ」が検索される頻度が高くなるという。
「BBQ」の語源には諸説あるが、もともとは「肉をあぶる木製の台」を意味するハイチ語だという。16世紀に入植したスペイン人により調理法を表す言葉と勘違いされ、スペイン語で「丸焼き」を意味する「Barbacoa(バルバコア)」に転化し、大航海時代に英語圏に伝わった際に、「グリルで焼いた肉」を表現する言葉として解釈され、英語で「Barbecue」となった。その後、特に米国で一つの食文化と言えるほど広がる中で、略されて「BBQ」となり、そのまま日本に伝わったと言われている。
「BBQ」の本場はやはり米国だ。興味深いのは、本場米国と、日本のBBQの様式の違いである。日本では韓国式の焼き肉がすでに広まっていたためか、鍋料理のように調理しながらみんなで食べるという文化があったからか、肉や野菜を焼きながら同時進行で食べることが多い。肉も、焼き肉に適した薄切りの肉が使用されることがほとんどで、焼きあがった肉や野菜をタレにつけて食べる。しかし本場米国では、塊のままの肉にしっかり下味をつけて、焼く以外にもスモークしたり、ローストしたりと様々な調理法を駆使しながら、先に調理をすべて済ませて、盛り付けまで終えてからみんなで一斉に食べるというのがBBQの基本のスタイルだそうだ。
この辺りは、BBQを「みんなで調理して食べること」と捉えるか、「ホストによるゲストを楽しませるおもてなし」と捉えるかの違いなのかもしれない。共通しているのは、「みんなで楽しみたい」という思いだ。今回は日本式のBBQの場をさらに盛り上げてくれる塩遣いについてご紹介したい。
また、最近話題なのが「焼かないBBQ」。BBQ場に到着したあと、材料を運び、炭をおこし、調理してという工程を経るが、意外と時間のかかり、あっという間に1時間はたってしまう。喉も渇くしおなかも空くし、楽しみにしていた気持ちが少し萎えてしまったりもする。そんな時にぱっとつまめるフィンガーフードなどのいわゆる前菜があれば、楽しく準備ができる。そんな料理が、火の準備が整っていなくてもできる「焼かないBBQ」なのである。この「焼かないBBQ」でも塩が場を盛り上げるのに役立ってくれる。
焼いた肉や野菜をタレで食べるのももちろんおいしいのだが、タレで食べるとどうしてもタレの味が勝ってしまって、肉や野菜本来の味わいを楽しむことができない。そこでおすすめしたいのが、まず塩で食べることだ。塩は料理においては「名わき役」であり、主役である肉や野菜の味をしっかりと際立たせてくれる。素材の味そのものを楽しんだあと、おいしいタレで食べれば、1粒で2度おいしさが味わえるというわけだ。いくつかおすすめをご紹介しよう。
まず、塩そのものに味がしっかりついている「シーズニングソルト(調味塩)」タイプだ。シーズニングソルトとは、塩にハーブやスパイス、エキスパウダーなどをブレンドして味をつけてあるもののことだ。有名なものでは米国発の「クレイジーソルト」があり、日本の大手食品メーカーも各種発売している。いずれもスーパーマーケットで容易に手に入れることができる。シーズニングソルトの最大の利点は、すでに味が完成されているので、味付けに失敗がないということだ。肉でも野菜でも、ひとふりすれば味付け完了、である。
また、みんなで調理し、1つのテーブルを囲んで盛り上がるのが日本式BBQの醍醐味とも言えるが、塩は盛り上がりにも花を添えてくれる。前述したシーズニングソルトに加え、見た目や味にインパクトのある塩を器に持ってテーブルに設置しておけば、「あれがおいしい」「いや、こっちがおいしい」と会話のきっかけにもなる。なんなら塩の知識を少し仕入れておいて、軽いうんちくを披露するのも楽しさとおいしさを増してくれるだろう。
たとえば、国産の青竹の中に塩を詰め込んで炭焼き窯で焼いた「珠洲の竹炭塩」は真っ黒なので、一瞬塩ではないように見える。また、塩に紅芋から抽出したポリフェノールを加えて乾燥させた「あっちゃんの塩 紅塩」は鮮やかなピンク色でかわいらしい。これ以外にも、ウコンやターメリックを加えた黄色のものもあれば、クマザサのエキスを入れた緑色の塩などもある。また、薄い板状の結晶をしたイギリス産の「マルドン・シーソルト」や、中が空洞のピラミッド状の結晶の塩なども、まるで宝石のような美しさで非常に目を引くだろう。おなじみのピンク色の岩塩なども、塊で持っていって、その場でおろし金でガリガリと削るだけでも、ちょっとしたエンターテインメントになる。
このほか、インパクトのある味で代表的なのが硫黄を多く含んだ塩で、しょっぱさはほとんどなく温泉卵の味がする。インド産岩塩の「マグマ塩」、インド産の湖塩にタマリンドなどを加えて焼成した「インディアンルビーソルト」などが手に入れやすい。
肉や野菜といった食材以外に、変わったものを持っていきたいなと考えている人は、ぜひ前述のような塩を持参して、器に並べてテーブルにセッティングしてみてはいかがだろうか。
さて、どんなにおいしい食材や調味料を用意したとしても、なによりも重要なのは、どのように調理するかということである。焼くにしても、生焼けだったり焦がしてしまったりしては、おいしさも楽しさも半減してしまう。そして、BBQだからといって、ただ焼くだけではもったいない。おいしい焼き方や、塩を活用した焼かないBBQレシピをご紹介しよう。
<おいしい焼き方>
●焼き台の中の炭の量は均一にしない
炭を置く量を調整して、強火ゾーン、中火ゾーン、弱火ゾーンに分けて作っておく。強火ゾーンで表面を焼いて肉汁の流出を防いでから、中火ゾーン・弱火ゾーンを活用して中までじっくり火を通す
●焼き始めるのはおき火になってから
炭が火をあげて燃えている状態では、表面だけが焦げて上手に焼くことができない。炭が火を蓄えている状態になってから焼き始める
●下味に使う塩は、薄く、焼く直前に
肉に塩をして長い時間置いておくと、脱水してうまみが逃げてしまう上、身が締まってしまって硬くなるので、下味をつける場合は薄めに、焼く直前にふる
<おすすめの「焼かないBBQ」レシピ>
●トマトとアボカドのサラダ
アボカドの皮と種をむき、一口大に切る。トマトはヘタを取り同じく一口大に切る。乾燥バジル、オリーブオイル、好みの塩を加えてあえたらできあがり。パンにのせてもOK。
●キュウリとミョウガの大葉あえ
キュウリとミョウガは斜めに薄切りにする。大葉はたたいて香りを出したあと細切りにする。好みの塩、ごま油を加えて全体を混ぜたらできあがり。
●ネギ塩タレ
小口切りにしたネギに、お好みの塩、ごま油、みじん切りにしたニンニク、粗びきブラックペッパー、レモン果汁、煎り白ゴマを適量混ぜたらできあがり。
いつものBBQに、適切な調理とおいしい塩を加えれば、さらに楽しくおいしい時間になること間違いなし。これからBBQに行く人はぜひ試してみてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。