そして2年生の夏休み、足りなかったピース「自分事化」を手に入れるため、再びカンボジアへ向かった。今度は仲間と家を借りて住み込み、大学生や近所の住民らと積極的に交流した。バケツに入れたアメリカミズアブの幼虫を配って回り、実際に生ごみが分解されている様子を体感してもらった。すると自身の中で変化が起きた。
「この人たちを助けたい。でも、貧しい人たちという画一的なイメージで語りたくない」という感情がこみあげてきた。知り合ったカンボジアの人たち一人ひとりの「顔」が見えてきたのだ。ビジネスコンテストに出た当初の「こんな虫がいて、ビジネスっぽく使えるかも」という浅い思考からようやく抜けだし、血が通い始めた。
「自分事化」する感覚を得て帰国した川本さんらのチームに対し、回りの反応も以前とは変わった。日本財団ソーシャルイノベーションアワード2018最優秀賞、そして19年には東京大学総長賞も受賞した。そして19年春には、沖縄県本島南部に位置する八重瀬町の養鶏場で実証実験も行った。社員食堂における実証実験も複数社で展開する予定だ。大活躍の息子の様子を見た母親からは「やりたいことを見つけたんだね」という言葉をもらった。
起業家然としているが、「本業」は医学部生の川本さん。将来について聞くと、「医師になって国境なき医師団に参加します」という答えが返ってきた。医師としてのキャリアを見据えつつ、学生の今はアメリカミズアブの研究に力を注ぎ、「生ごみを焼却しない未来を目指す」という。「将来はアメリカミズアブは名前も知れぬ存在から、生活に当たり前に存在するテクノロジーへと変貌する可能性を持っている。その価値が理解され、みんなが活用していくような循環型社会が実現していれば……」と夢見ている。
(津田春佳 桜井陽)