「その情熱は本物なのか」と突きつけられた

大学1年生だった2017年の夏、川本さんはカンボジアを訪れた。首都プノンペンで道路脇に生ごみが堆積している状況にショックを受け、衛生状態の悪さから命を落とす子どもがいることを知った。

「この状況、なんとかできないかな」。

思い立ったら行動は素早い。東大医学部と工学部の同級生からなる3人でチーム「グラビン」を結成。定期的なゴミ収集が行われていないことが原因であると考え、生ごみをその場で衛生的に処理できる方法はないものか、英語の論文を徹底的に調べ上げた。生ごみの分解能力が高いうえ、成虫に口がなく、病原菌を媒介させないアメリカミズアブの幼虫を利用するのがベスト、という結論に達した。たんぱく源としても高い栄養価を持ち、排せつ物も肥料となる。まさに理想的な幼虫だった。

3人はプレゼンテーションの練習も重ね、万全の備えで意気揚々と、世界各国の学生が参加するビジネスコンテスト「Hult Prize(ハルト・プライズ)」に臨んだ。結果は、2位だった。「なぜなんだ……」

審査員からの指摘が胸に突き刺さった。「君たちのパッションが本物なのか偽物なのか分からなかった」。

1位となったバングラデシュ人のチームにプレゼン内容は全く見劣りせず互角だったが、審査員から見て決定的な違いがあったという。それは、彼らが自分たちの国の問題を自分たちで解決しようとしていた一方で、川本さんらのチームはカンボジアという他者の問題を解こうとしていたのだ。川本さんは言う。「主語が"I"になっていなかったんです」

「自分事化」するために再びカンボジアへ

研究をストップするのか否か――。川本さんが出した結論は、続行だった。「もちろん研究結果も大事なんですけど、何よりも面白いメンバーと一緒に時間を過ごすことが最高に楽しかったんです」。物理学の視点、生物学の視点、エンジニアリングの視点……。三者三様の見方で一つのことを徹底的に、ときにはケンカしながらも議論していく。この関係性こそが川本さんにとってかけがえなく、それ故、研究ストップはあり得なかった。