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サカナクション、常にトレンドのバンド(川谷絵音) ヒットの理由がありあまる(13)

日経エンタテインメント!

2019/10/2

今回は僕が大ファンのサカナクション! 6年ぶりのアルバム『834.194』がようやく出たということで、僕は本当にうれしいんです。

彼らほど大衆に受け入れられ、なおかつ、コアな音楽ファンにも認められているバンドって他にいない。「フジロック」に出ても生配信のコメントは荒れない。それはライブのレベルが高すぎるから。誰も文句を言えないんですよ。6.1chサラウンドのツアーといった、誰もまねできないクオリティーのライブコンセプトや、「NF」などのクラブイベント。アーティスト写真には、シャルロット・ペリアンのミッドセンチュリーソファー(僕も影響されて同じのを持っています)など、とにかくセンスが抜群。いろんな業界のセンスの良い部分を敏感に感じ取って、すぐに取り入れる。

今は、もう音楽を曲の良さだけで見せる時代ではない。ストリーミングや配信が主になってきていて、曲のリリースに時間はかからないから、日々いろんなアーティストの新曲が配信される。だから、より多角的な見せ方をして、アーティスト自身の立ち位置をはっきりさせないと、すぐに埋もれてしまうのだ。そんななか、サカナクションは昔から多角的な見せ方をしていた。ライブ、ミュージックビデオ、ジャケット&アーティスト写真に至るまで、ずっと挑戦を続けてきた。アルバムを6年出さなくても、サカナクションはずっと音楽業界の最前線にいたし、注目せざるを得なかった。

そして映画『バクマン。』の主題歌となった『新宝島』の破壊力はすさまじかった。リリースされたのは2015年、4年も前だ。だが、6年ぶりの今作にも収録できる。トレンドというのは移り変わっていくものだが、『新宝島』はずっとトレンドだ。いつ聴いても新しいのだ。彼らのすごさはそこにある。根底にあるのはダンスミュージックなのだが、そこに合わさる(山口)一郎さんの歌心が、日本人誰もが内に秘める部分と共鳴しているのだ。童謡に近いと言えばいいのだろうか、日本人が安心する旋律が歌に内包されている。そこに高揚感と緊張感の合わさったダンスミュージックが顔を出す。安心と緊張を行き来する絶妙なフュージョン感が、僕らを虜にするわけだ。

■焦らし系ソングが生み出す高揚感

先行トラックにもなった『ナイロンの糸』は、サカナクション特有のサビがなかなか出てこない焦らし系の曲。この焦らしは『夜の踊り子』などとも共通しており、Bメロを何回か繰り返し、枯渇感をあおってから最後にサビがくる。ちなみに僕も、indigo la Endの『冬夜のマジック』 でこの手法を取っている。最後のサビの高揚感たるや、普通にサビが何回もある曲と違って、エモさ増し増しなんですよ!

しかも『ナイロンの糸』は最初は抑え目の軽いビートで、2番のAメロから4つ打ちのビートが入り、徐々にサビを予感させてくるんですよね。でもなかなかこない。2番はBメロの前にさらに間奏が入って、Bメロすらも焦らされる。そんなことされたらより欲しくなっちゃうんですよね、サビが。そして最後に「この海に居たい」と何回も繰り返すサビ。夜の途方もなく暗い海の景色が、僕の頭には広がって離れなくなった。ズルい。最初の先行トラックがキャッチーな『忘れられないの』ではなく、この『ナイロンの糸』なのもズルい。

ストリーミングや配信では、アルバム情報を出した後に、徐々に先行トラックを解禁していき、アルバムを期待させていく手法が王道だ。そんななか、重要なのは解禁していくトラックの順番。最初に『ナイロンの糸』という、どちらかといえば地味な曲から出していったのは正解だと思う。これも一種の焦らしだ。

サカナクションはズルいバンドだ。ミュージシャンの夢が詰まってる。彼らを見ていると、ダンスミュージックに興味を持つし、アートにも、ミッドセンチュリーの家具にも興味を持つ。そんなことある? 常にトレンド、それがサカナクションなのだ。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして幅広く活躍。ゲスの極み乙女。の新曲『秘めない私』を現在配信中。indigo la Endは、10月9日に5thアルバム『濡れゆく私小説』をリリースする。

[日経エンタテインメント! 2019年8月号の記事を再構成]

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