「社員の笑顔」がトップの責務 西郷隆盛の遺訓に学ぶピジョン 山下茂会長(上)

「当時のピジョンは海外部だけ専門職のように別採用でした。たまたま内定辞退が出たというので、今だったら必ず海外部に入れると友人が私に教えてくれました。外資系商社に入れば、最初は日本国内の営業でしょう。海外へ出るにはピジョンの方が早く行けると考え、受けたら受かったのです。ピジョンというよりも、仕事で選んだという感じです。今でしたら最初のエントリーで3000人くらい、採用は10人前後ですから、私は入れないでしょう。そうはいっても、私が新卒学生を面接するときは志望動機など、かなり突っ込んで聞きますけれど」

――タイの後、米国子会社の社長など海外経験が長いですね。

「海外をずっと回って、日本に戻ってきたのは07年です。ピジョンの社長になる13年までは海外事業の執行役員や取締役などをしました。でも基本的にはずっと海外畑です。社長になる3年くらい前から、4代目の社長の大越昭夫から『次はお前に任せる』みたいなことを言われましたが、『自分はそういう器ではありません』と、ここでも断っていました。タイと米国の子会社の社長はできても、本社の社長はできないだろうと思っていたんです」

「西郷南洲遺訓」で「自分のためではなく、誰かのために働くことの尊さ」を学んだ

「私は5代目社長でしたが、3代目の松村誠一、4代目の大越とも非常にリーダーシップが強いタイプでした。そういう社長と比べると私は違うタイプでできないな、というのが正直なところです。でも、ずっと言われ続けて、『やっぱりやらないといけないかな』と考え始めたとき、知人に西郷隆盛の『西郷南洲遺訓』という本を薦められて、現代語版を読んだのです」

「自分のためではなく、誰かのために働くことの尊さが伝わってきました。タイや米国の子会社の社長を経験して自分が見つけ出したことと、同じように感じたことを、さらに立派な内容で書かれていたので感銘したのです。もう一つは天から与えられた運命に逆らってはいけない、そのまま受け取りなさいという教えが書かれていました」

社員を自分の家族以上と思い働けるか

「タイのときもすごく迷いましたが、やってみたら色々な出会いがあって、一生懸命働いたら必ず誰かが助けてくれました。でも、子会社の社長とグループの社長はレベルが違いすぎます。子会社の社長のときは例えば、『社員を自分の家族と同じか、それ以上に思って働けるか』などと自分に問いかけはしませんでした。自分の中で腹に落ちていなかったんでしょうね」

「ただ、グループの社長になるということは、『自分の家族と同等、あるいは自分の家族よりも優先して社員のために働けるかどうかが問われる』のだと、西郷南洲遺訓が後押ししてくれたのだと思います。これは西郷隆盛本人が書いた本ではなく、伝承などをまとめたものだそうですが、『西郷さんはそういうリーダーであってほしい』という人々の願いも込められていたのだろうと思います」

山下茂
1958年生まれ。81年立教大社会学部卒、ピジョン入社。ピジョンインダストリーズ(タイ)、ランシノ・ラボラトリーズ(米)社長を経て、2009年取締役、12年取締役常務執行役員、13年社長、19年4月から現職。

(笠原昌人)

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