「フランスでは労働法が改正され、17年から働く人の『つながらない権利』が規定されました」と青山学院大の細川良教授は指摘します。携帯電話やメールが普及し、仕事が生活領域を侵すようになったことがきっかけです。「ICTの発展は労働時間と休息・休日の区分をあいまいにしました。今後の本格普及に備えてルールを検討することが大切です」

細川良・青山学院大学教授「つながらない権利などルール明確化必要に」

休日や退社後に上司や取引先からメールが届いたときに、開封せずに無視する度胸はなかなか持てません。「緊急だったら」「大口契約の相談かもしれない」といった思いが頭をよぎり、ついつい読んでしまいがちです。こうした状況に歯止めをかけようとフランスは「つながらない権利」を法律に位置づけました。フランスの労働法制に詳しい青山学院大学・細川良教授に概要と法制化の背景を聞きました。

――「つながらない権利」とは何ですか?

細川良・青山学院大学法学部教授

「ICT(情報通信技術)の発展、普及により、スマートフォンやパソコンを使って、どこでもいつでも職場にいるときと同様に仕事ができるようになりました。それは便利である半面、いつも会社や上司とつながっている状態となるため仕事と私生活の区切りをあいまいにします。勤務時間外はこうしたつながりをシャットアウトして構わないとする権利のことです」

「フランスは労働法を改正し、『つながらない権利』に関する規定を設けました。2017年1月1日から施行されています。ただし、特定の行為を明示して禁止しているわけではありません。『つながらない権利』を実現するために労使で協議して協定を結ぶことなどを定めました。それは業態や業種などにより事業内容は異なり、一律の規制が難しいからです。例えばグローバルに事業を展開している企業では24時間対応が必要な業務もありえます。国が一律にルールを設けるのではなく、それぞれの企業で実情に合わせた『つながらない権利』を実現する仕組みです」

――法規制の背景は何ですか?

「議論は00年代からありました。携帯電話が普及してきてからです。裁判になった事例もあり、判例などを通じて『つながらない権利』は実質的に認められていました。ただICTが発展・普及し、問題がますます一般化してきたので法律できちんと定めようと法改正に至りました」

「日本人はフランス人について仕事より私生活重視のイメージを持っていると思います。でも最近はフランス人の働きぶりもずいぶんと変わってきました。勤務時間外や休暇中であっても仕事の電話に出たり、電子メールに返信したりします。そんな風に働く人が増えてきたのも法制化が浮上した一因です」

――法規定がない日本では「つながらない権利」は認められないのでしょうか?

「日本でも主張はできます。労働から完全に解放されていないと休憩時間とはいえないとする判例があります。つまり勤務時間外や休日に上司からの電話に出たり、顧客からのメールに対応したりすることを会社が義務付けていたらアウトです。でも現実は複雑です。義務付けがない状況で働く側が自主的に対応するといったケースはグレーです。どこまでが良くてどこからがダメなのか。連絡の頻度や義務付けの強さなどを総合的に判断することになります」

「労働時間であるか否かの判断は昔は容易でした。ポイントは上司の指揮命令下にあるかどうか。携帯電話がない時代ならば職場を離れてしまえば上司は業務命令を伝えようもなく、労働時間外であることが明確でした。ICTの発展・普及で、こうした従来の判断基準が意味をなさなくなってきました。特に日本人は仕事に対してまじめなので、つい対応しがちだと思います。日本ではテレワーク普及率がまださほど高くありませんが、これが一般的になっていくなかで『つながらない権利』などルールを明確にしていく必要もあるでしょう」

(編集委員 石塚由紀夫)

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