◇ ◇ ◇
宿主を操り、自らに都合のよい行動を取らせる寄生虫がいる。聞いただけで気持ち悪いが、そんな寄生虫であるハリガネムシと宿主の異常行動を、森と川の生態系の中に位置づけて研究し、次々と成果をあげている佐藤拓哉さんの研究フィールドに行ってみた!(文 川端裕人、写真 的野弘路)
京都大学の芦生研究林を、神戸大学の佐藤拓哉准教授と歩く。
カマドウマとハリガネムシを見て、その次に目指すのは、渓流魚である。
佐藤さんの専門である生態学的な興味として、陸域の生き物であるカマドウマが、寄生虫のハリガネムシに行動操作されて川に飛び込むことが、川の生き物にどのような影響を及ぼしているのか、というのが勘所なのだ。
そして川の生き物で、直接、カマドウマを食べていそうなのが渓流魚、というわけだ。
佐藤さんは、大きな蓄電池の入ったバックパックを背負って、研究林内の流れに足を踏み入れた。最終的には若狭湾にそそぐ由良川の支流。京都府だがここはもう「日本海側」なのである。
佐藤さんが握っている棒の先にはリング状の電極があって、これで魚を一時的にまひさせて動けなくする。いわゆる「電気ショッカー」だ。捕まえた魚は電流を止めるとすぐに再び無傷のまま泳ぎ出すので、魚体にとっても安全な捕獲方法として調査などで使われる。もっとも、研究用に許可を得ているからできることで、漁法としては一般には禁止されている。
佐藤さんは川の中を上流に向けて歩き、ここぞという場所で手際よく電気ショックを与えていった。魚が浮いてくると、その中からサケ科の魚、つまり、釣りの対象としても人気の高いヤマメやイワナを選んでバケツの中に入れた。大部分はヤマメで、いずれも青い斑文がくっきり浮かび上がっていた。優しげな小顔のたおやかな雰囲気はまさに山女(ヤマメ)である。1匹だけいたイワナは、おなかが鮮やかなオレンジ色で精悍(せいかん)な顔つきをしていた。両方とも婚姻色で、ひれに傷などが一切ない美しい魚体だった。
しかし、こんな細い川に、立派な魚がいるものだ。研究林で保護されているというのもあるだろうが、なんということのない岩の下から大きなヤマメが飛びだしてくるのは、見た目にも美しい光景だった。
佐藤さんの研究では、これらの魚の胃内容物が問題になる。しかし、腹を裂く必要はない。
「サケ科の特徴で、口から胃まで一直線につながっているので、こうやって水を入れてやれば、食べたものを簡単に吐き出します」