寄生虫ハリガネムシ どうやって宿主の心を操るのか神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉(3)

カマドウマではなくてコオロギ。いったいなぜ? たしかにヨーロッパでの先行研究はコオロギを使っていたわけだが、研究林で佐藤さんはしきりとカマドウマを集めていたので、当然、カマドウマを使うのだろうと思っていた。

「ヨーロッパイエコオロギとか、市販されているような簡単に手に入るコオロギを使って研究を回したかったんです。アメリカのハリガネムシではできるっていうのがわかっていたのと、神経生理をしっかり進める上でモデル生物の1つなんです。重要な機能に関するタンパク質とか、遺伝子レベルのこともほとんどわかっているので、それに対して寄生生物が何したかっていうのがチェックしやすい。でも、全くうまいこといかなくて。それで、本州だけでなくて、北海道のハリガネムシとか、いろんなハリガネムシ試してて、もうマッドサイエンティストです。集めてきては卵産ませて、食べさせて感染させまくるって……それでもできないので、仕方がないので今年からはカマドウマやカマキリにまで手を出すかというところなんです(笑)」

カマドウマは成長するのに時間がかかるし、ヨーロッパイエコオロギのように、モデル生物というわけでもない。神経生理学的な研究のためには、ちょっと都合が悪い部分もあるのだが、しかし、現場で実際に寄生されているものだから、それができれば研究の長所にもなるはずだ。いったいどんなメカニズムで行動が操作されるのか、さらにメカニズムが解明されるのが楽しみだ。

もっとも、生態学者の佐藤さんとしては、この研究はどちらかというと派生的な課題である。

「生態学の立場からすると、別にここ、ブラックボックスでもいいんです。ある生き物が別の生き物の行動を操作して飛び込ませることで、生態系の中で生物群集ができ上がったり、生態系の機能が働いたりするっていう部分がわかればいいので、その時、頭の中でどんなタンパク質が発現しているかとか分かってなくてもいいんですよね。でも、興味深いのは確かですし、解明できたら生態学的な興味につながるかもしれない部分もありますので」

では、生態学的な興味としては、むしろどっちに向かうのが本来の関心事なのかというと──。

端的にいえば、飛び込んだカマドウマが、その後、どうなるか、だ。

上がヤマメ

やっと、カマドウマ・ハリガネムシのちょっとキモチワルイ関係から、次の話題に移ることができる。研究林で出会う「フルコース」の中で、デザートのごとき清涼な生き物。ヤマメやイワナなどのサケ科の渓流魚だ。

(2014年10月 ナショナルジオグラフィック日本版サイトから転載)

佐藤拓哉(さとう たくや)
1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
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