ベートーヴェン唯一のオペラ 失敗作の汚名返上なるか生誕250年控え「フィデリオ」上演相次ぐ

新国立劇場、カタリーナ・ワーグナー演出の「フィデリオ」。フロレスタン(ステファン・グールド=手前左)とレオノーレ(リカルダ・メルベート=手前右)を刺殺後、石を積み上げて閉じ込めるドン・ピツァロ(ミヒャエル・クプファー=ラデツキー)撮影=寺司正彦、提供=新国立劇場
新国立劇場、カタリーナ・ワーグナー演出の「フィデリオ」。フロレスタン(ステファン・グールド=手前左)とレオノーレ(リカルダ・メルベート=手前右)を刺殺後、石を積み上げて閉じ込めるドン・ピツァロ(ミヒャエル・クプファー=ラデツキー)撮影=寺司正彦、提供=新国立劇場

2020年。クラシック音楽の分野で東京オリンピック&パラリンピックに匹敵する世界的イベントは、日本でも人気が衰えないドイツ人作曲家ベートーヴェンの生誕250周年である。1970年。大阪万博(日本万国博覧会)と重なった生誕200年にも、大型の演奏会が相次いだ。半世紀前との大きな違いは、1997年の新国立劇場オープンと前後してオペラの観客の裾野が広がり、ベートーヴェン唯一のオペラである「フィデリオ」に接する機会が格段に増えたこと。長く「失敗作」の汚名にまみれてきた異形のオペラだけに、演奏する側は「説得力ある再現」に知恵を競い合う。

昨年から今年にかけて、東京都内ではカタリーナ・ワーグナー演出、飯守泰次郎指揮東京交響楽団による新国立劇場の新演出舞台上演(2018年5~6月)、チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団定期(同年5月6、8、10日)、東急文化村オーチャードホール主催のパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団(2019年8月29日、9月1日)の演奏会形式上演などが切れ目なく続く。

新国立劇場は前オペラ芸術監督の“卒業制作”であり、演奏会形式の2公演も楽団で固定ポストを持つ名指揮者による鳴り物入りの公演。往年のオーストリアの大指揮者カール・ベームは第2次世界大戦中の爆撃で破壊されたウィーン国立歌劇場の再建記念(1955年)、東京の日生劇場こけら落としを記念したベルリン・ドイツ・オペラ来日公演(1963年)など、モニュメンタル(記念碑的)な場面で必ずといって良いほど、「フィデリオ」を指揮していた。

記念碑的作品、実は問題作?

実は、「モニュメンタルな作品」と特別視される点にこそ、オペラ「フィデリオ」の立ち位置の難しさが潜む。ドイツ語台本は18世紀末にフランスで起きた事件を題材にフランス語で書かれたジャン・ニコラス・ブイイの戯曲を下敷きに、ヨーゼフ・ゾンライトナーとゲオルク・フリードリヒ・トライチュケが書き下ろし、ゾンライトナーがベートーヴェンに「1805年初演」の前提で作曲を依頼した。

ヒロインのレオノーレが「フィデリオ」という名の男性に変装して監獄に潜入し、政治犯として拘留されている夫フロレスタンを救出する物語。同時に他の囚人たちも自由を回復する設定によって、「救済オペラ(ベフライウングスオーパー)」と呼ばれてきた。

背景にはフランス革命(1789~99年)と前後してヨーロッパ社会に広がった自由主義思想があった。貴族の「お雇い」を脱し史上初のフリーランス作曲家へと歩み出たベートーヴェンは当然、深く共鳴した。1805年11月20日、アン・デア・ウィーン劇場で作曲家自身が指揮した世界初演は「レオノーレ」の名称で行われたが、客席の大半がウィーンに侵入したばかりのナポレオン軍のフランス兵でドイツ語を理解できず、失敗に終わった。

ベートーヴェンは友人たちの意見も聞きながら改訂に執念を燃やし、「レオノーレ」と題した序曲だけで3種類も作曲している。1814年の再演で「フィデリオ」の題名を最終的に受け入れ、新たな序曲も追加したため、「1つのオペラに4種類の“序曲”」の問題は後世に持ち越された。現在でも(1)「フィデリオ」序曲を冒頭に演奏、救済場面の手前に単独でも「名曲」の仲間入りをした序曲「レオノーレ」第3番を挿入する、(2)冒頭で「レオノーレ」第3番を演奏して「フィデリオ」序曲に代える、(3)「フィデリオ」序曲を冒頭に演奏するだけ――の3通りが混在する。ウィーンではマーラーが宮廷歌劇場(現国立歌劇場)の音楽監督だった時代から、両者とも演奏する上演(1)を続けている。

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