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井上芳雄 エンタメ通信

『エリザベート』で「死」をどう演じたか(井上芳雄) 第50回

日経エンタテインメント!

2019/8/17

井上芳雄です。今年の夏は6月7日から8月26日まで、帝国劇場で上演しているミュージカル『エリザベート』に出演しています。黄泉(よみ)の帝王トートを演じるのは3年ぶり。3回目ですが、今回は演じ方や歌い方が少し変わっています。お客さまからの人気が高い役だけに、楽しみにして来られる方の期待を裏切らぬよう、日々工夫を重ねています。

『エリザベート』は東京・帝国劇場にて8月26日まで上演中(写真提供/東宝演劇部)

『エリザベート』はオーストリア=ハンガリー帝国の皇后エリザベートの生涯を描いたウィーン発のミュージカルです。トートは、いわゆる死に神なのですが、エリザベートを少女のころから愛し続け、見守りながら、自分の愛つまり死を受け入れてくれる日を待っているという存在です。

僕が最初にトートを演じたのは2015年。そのときは、死に神だからといって仏頂面をしているのもつまらないと思っていて、「生き生きとした死をやりたい」と言っていたし、実際、表情豊かにというか、情熱的な感じで演じていたと思います。トートの中ではエリザベートに対する愛が生まれているのだから、いろんな感情が渦巻いているはずなので。

その解釈は今も変わらないのですが、今回はけいこのとき、演出の小池修一郎先生に「そのままやっても、いつもの井上芳雄になってしまうだろう」みたいなことを言われたし、自分でも、もっとほかの表現はないのかなと考えていました。それで、死に神って何だろう、とあらためて考えたとき、同じ気持ちの動きはありながらも、表情や動きで表さなくても、心の中で何かが起こっていれば伝わるのかもしれない、と思ったんです。

ちょうどけいこの時期に、僕がハマっている海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の最終章の放送がありました。七王国の玉座争いを描くスペクタクルですが、見せ場のひとつがホワイトウォーカーという死者の軍団と人間の最終決戦でした。その死者の軍団を率いる「夜の王」は表情ひとつ変えずに、大勢の人を次々と殺していきます。それがめちゃくちゃ怖くて「これだ!」と思いました。トートは表情がなくてもいいんだ、と。今回のトートは、ほかにも参考にしたイメージはありますが、メインはその夜の王の様子を思い浮かべながら役作りをしました。

だから前回より動きが少ないと思うし、表情も変化に乏しいと思います。でも、不思議なもので、集中力やエネルギーは今までより大きくなりました。自分の中で何も起こってないと、ただの能面の人になってしまうので、内側ではいっぱい感情を起こしておいて、でも外には出さない。何かが自然とあふれ出てきているはずだ、と信じてやっています。

歌い方は、発声が前回と少し変わっています。この連載で以前書きましたが、2年前に『グレート・ギャツビー』をやったときに歌唱指導の山川高風先生に習い、声を響かせるところが一定になるように変えたことで、安定して声が出るようになりました(「10年ぶりに新しい発声法に挑戦 声が変わった実感」)。発声法を変えてから初めて演じるトートなので、歌いやすくなった実感はあります。

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