和牛、好きな芸人で大躍進 一番大事にしたいのが漫才
日経エンタテインメント!によるお笑い芸人人気調査の「好きな芸人」で、サンドウィッチマンや明石家さんまなど、並み居る大物に食い込む形で6位になったのが和牛だ。「ブレイクした芸人」では2018年の18位から3位へと大躍進。若い世代を中心に人気が広がっている2人に、結果に対する感想や今後の展望を聞いた。
川西(写真右) この1年を振り返ると、ちょうど中間に『M-1グランプリ』がありますが、『M-1』のあとに仕事の質が大きく変わったと思います。それまではレギュラー番組も少なく、単発のロケやスタジオゲストが多かったんですが、冠番組が立て続けに始まりました。
水田(左) 内村(光良)さんみたいになれたらいいなと思ってやってきたので、「好きな芸人」で同じ6位になれてうれしいです。
川西 大丈夫? レギュラーの『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)は南原(清隆)さんがMCだけど。ちゃんと考えてボケたほうがいいよ?(笑)。
水田 憧れの南原さんの隣にいるためには内村さんみたいにならないと。
川西 じゃあ6位でもう夢がかなってる(笑)。
もともとお笑い好きの間では高い人気だった2人だが、この広がりを当の本人はどう実感しているのだろう。今回、「ブレイクした芸人」では35~44歳女性のカテゴリーで1位に選ばれた。
川西 ライブだと劇場のキャパで人数が把握できるけど、テレビって見えないところに向かって球を投げている感じがあるから、何人がそれをキャッチしてくれて、いいと思ってくれたのかは分からないっていうのが正直なところで。ただ、35~44歳の女性が「ブレイクした」に投票されたということは、それまで知らなかったということだと思うので、じわじわ広がってきたのかもしれないですね。
水田 若手芸人のファンって中高生が多いけど、僕らのファンは若い女性ばかりじゃなかったので、いい感じにいろんな層の人が見てくれるようになったのかな。
川西 言われてみれば、最近おそらく僕らよりも年上で応援してくださっている方からお手紙をいただく機会が増えてきたかもしれないです。僕ら、ふざけてファンの人たちのことを「仔牛ちゃん」って呼んでるんですけど、「仔牛という年齢ではないですが…仔牛です」とか、「娘と一緒に見に行きます」みたいなことを書かれることが多くなりました。
19年になって、『和牛のギュウギュウ学園』『ギュッとミュージック』(共に関西テレビ)、『断ちごはん~和牛もいただきます~』(BS日テレ)という3本の冠番組がスタート。2本が関西ローカル、もう1本がBS波である。
川西 冠番組は芸人をやっていたらやはり意識するものですし、僕らもそこを目指してやってきたので、めちゃくちゃうれしいです。
水田 やっぱりコンビ名が番組名に入るのは特別ですよね。子どものときに『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』を見て育ったので。いつか『和牛のやるならやらねば!』をやりたいなと。
川西 今日は内村さん軸でいくの?(笑)
水田 関西の番組が多いですが、もともと関西でやっていこうとか、東京でやっていこうとか考えず、東京の仕事が増えたから東京に出てきただけなので、そこは気にしていないです。僕らはどこでやろうが、一番大事にしたいのが漫才というのは変わらないので。
川西 たくさんの人に見てもらいたいと思いますけど。どこでやるかよりも何をやるかですね。
『M-1』に縛られた2年前
18年の『M-1グランプリ』では1票差で霜降り明星に敗北したが、3年連続準優勝は、彼らだけが成し得ている成績だ。2人にとって『M-1』とは。
川西 コンビ結成当初は単純に大好きなテレビ番組の1つで、憧れの舞台として見ていました。決勝に残るまでの道のりは長かったですね。コンビを組んでから何年かして関西の賞レースで決勝に残れるようになりましたが、そのあと12年くらいに1回スランプもあったんです。何をやってもうまくいかなかった。
水田 漫才でなかなか結果が出ないんで、相方と社交ダンスでもやろうかと思ってました。
川西 まだウンナンさんでいく?(笑)。それで、13年頃からやり方を変えて、水田の細かい性格もネタに生かしたんです。そしたら周りの芸人が面白がって、自分らもどんどん楽しくなって。
水田 ネタ番組に呼ばれるようになったのもその頃です。
川西 それでようやく関西の賞レース(上方漫才コンテスト)で優勝できて、『THE MANZAI2014』でファイナリストに入って、初めて『M-1』の決勝に行けたのが15年。
水田 ただ、『M-1』に出たことで自分たちらしさを見失っていたときもありました。
川西 16年に準優勝したあと、「次は優勝しいや!」っていう声がめちゃくちゃ高まって。それで翌年は『M-1』を意識しすぎちゃった。「今年は絶対取る! 今年逃したらあかん!」くらいの追い詰め方で、周りが見えない状態でした。普段の劇場もネタ作りも全然楽しめてなかった。
水田 17年の前半は「こうしたほうが面白い」ではなく、「こうしたほうが勝ちやすいんちゃうか?」っていうネタの作り方になってた気がします。本来はそういうものを好まないコンビだったのに、気付いたらそうなってた。
川西 そういう意味では18年のほうが楽しく過ごせていたと思います。
そうやって注目も高まっていったが、人気と背中合わせなのが世間からの厳しい目。好感度の高さはうれしい半面、複雑な思いも。
川西 最低限の危機管理は自分たちでやらなあかん時代だとは思いますが、こちらも人間ですから、「なんやこいつ!」っていう顔を見せることもあると思います。そんな顔を拡散されたら腹は立つけど「悪いことしてないからなー」って思わんとしょうがないですよね。
水田 常識に対して正直に向き合う気持ちはなくさないようにしないと、とは常々思ってます。失礼な人が来たら、こちらも普通に怒りますし、おじゃまする側だったら失礼のないように対応するのが当たり前。今は一般の方の反応を気にしすぎる風潮があるけど、過剰にならんようにしないと。
川西 芸能人の立場が弱くなって叩きやすくなっているから、それを面白がって、たかってくる野次馬もいますし。今回「好きな芸人」に投票していただいたのはありがたいけど、ここに入ったことでいい奴だと思われて、正直な自分を出したら叩かれるっていうのが嫌です。いい位置から始まったら減点方式で下がるだけやから。
着々と階段を登るなか、次のステップをどう考えているのか。
川西 水田は、セリフの少ない役者業をやりたいそうです(笑)。
水田 もう少し有名にならんと無理なんやろうな。存在感がないと。
川西 セリフが少ないのがいいんやろ?
水田 セリフが少なくて物語のキーになる人物がいい。
川西 じゃあ、あと3ステージは上に行かないと。
水田 でも、真面目な話、今やっていることを純粋に充実させていきたい。レギュラー番組も漫才も。
川西 新しいことを始める意欲というよりも、僕もそっちの気持ちのほうが大きいです。なんだかインタビュー映えしない2人ですみません(笑)。
(ライター 遠藤敏文)
[日経エンタテインメント! 2019年8月号の記事を再構成]
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