定年に伴う作業の一つに、DC(確定拠出年金)の受け取り方を決めることがあります。私はフィデリティ投信に入社した2006年からDCに加入していますが、それ以降ずっと日本の小型株に投資する投資信託で運用してきました。定年まで10年以上ありましたから、「最もリスクの高いもの、すなわちリターンが高くなるはずのもの」を組み入れたわけです。
令和の始まりとなったスーパー・ゴールデンウイーク明けの相場急落はあたふたしました。4月26日の日経平均株価の終値は2万2258円73銭。これが1カ月後の5月24日には2万1117円22銭へと5.13%下落しました。
DCでは必然的に積み立て投資を行いますから、拠出中の価格下落は積み立てコストの低下というメリットになります。しかし、4月末で定年を迎え、5月以降は拠出ができず、ただ残高を見つめるだけでしたから、「ちょうどここで急落かよ!」って思いましたね。何とも切ないタイミングです。
「退職に向けて作り上げた資産を引き出す時、リーマン・ショックみたいなことが起きたらどうするのか」といった想定を、これまでよく議論してきました。規模こそ小さいのですが、皮肉なことにこの事態が起き、それに投資教育に従事してきた私自身があたふたしているわけですから、行動バイアスというのは恐ろしいものです。
行動バイアスにどう対応?

行動経済学では「人は感情に左右されて非合理的な行動を取りやすい」と考えます。これを行動バイアスと呼びます。「選択肢が多過ぎるとかえって選べない」「同じ金額だと利得よりも損失の方が心理的に大きな影響を与える」といった点が、よく指摘される典型です。
私は5月24日の株価を基準に急落したとあたふたしてしまいました。これも行動バイアスの一つ「アンカリング効果」です。ある特定の水準(参照点)を基準にしてモノを考えてしまうというもので、投資の場合は最も高い株価や直近の株価を参照点としてしまいがちなのです。日経平均で言えば、18年10月2日の終値(2万4270円62銭)が参照点となりがちです。5月24日の株価を比較すると、13%も下落しています。