「だめな会社はおすすめです」――。次々と経営難に陥った老舗旅館やホテルの運営に着手し、日本の観光リゾートをけん引する星野リゾートの星野佳路代表。先代から引き継いだ直後は同族経営のしがらみに苦労しながらも、大胆な改革を進めてきたリゾート業界の革命児は働き方やキャリア形成の考え方も独特だ。U22記者と3人の学生がインタビューした。
就任後は「リゾート運営の達人」を標榜。前近代的な経営を改め、満足度調査などマーケティングに基づく経営を本格導入した。リゾナーレ八ケ岳(山梨県)を皮切りに全国の経営不振のリゾート施設やホテルの再建に取り組み、「リゾート再生請負人」として名をはせる。現在は「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」など複数のブランドを展開し、海外にも進出している。
(学生の聞き手はロンドン大学1年の石崎朱理さん、慶応大学3年の濱村孝英さん、東京大学2年の平河大斉さん)
うまくいっていない組織は最高のケーススタディー
――(濱村)星野さんが大学時代に大切にしていた考えは何でしょうか。
慶応大学アイスホッケー部にいましたから、ずっと頭の中にあったのは「打倒・早稲田」、それだけです(笑)。当時主将だった私はいかにチームを強くするかということを考えていました。これが実は今の経営にもすごく生きていると考えています。
体育会は上下関係が強いですが、アイスホッケーは氷の上で戦います。試合が始まると1年生も4年生も関係ありません。一人ひとりの局面での判断が大事で、そこにフルで権限を任せないといけない。実はこれって、接客も一緒なのです。
経営はすぐに「予算がないからできない」と言って予算で行動を縛りがちですが、顧客にどういったサービスを提供した方がいいのかというのは、現場の本人が1番理解していますから、スタッフに自由を与え、自分で判断して、自分で行動して、自分で責任をとるということを、皆ができるようになると経営って変わると思います。
――(石崎)私は大学院に行くかどうか迷っています。星野さんは米国のコーネル大学ホテル経営大学院を卒業されていますが、大学院進学はお勧めですか。
大学院で勉強するときに私が大事だなと思ったのは、働いた経験です。大学を卒業してから少し働いた後に大学院に入学しましたが、だめな会社を見ることは大事なんですよ。なぜ社員はこんなにやる気がないのだろうか、社長は優秀なのになぜ管理職はあんなにだめな判断をするのだろうか、構造的にどこが問題になっているのだろうかという感覚を理解するのは働いた経験があるからこそなのです。