劇団ひとり、ドラマ初演出 お笑いのシーンにこだわり
人を笑わせるためなら何でもやる"学園の爆笑王"の上妻圭右(間宮祥太朗)が、転校してきた元プロの芸人の辻本潤(渡辺大知)に誘われてコンビを結成し、厳しい漫才の道へと踏み出していく。このテレビドラマ『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)の演出を、劇団ひとりが務めている。映画監督の経験はあるが、ドラマの演出はこれが初めて。制作サイドでは、ほかに数人の演出家を入れることも考えていたが、全8話を担当することになった。
「テレビ朝日で別の番組の打ち合わせをしているときに、『こんな話があるんだけど』とお話をいただきました。ドラマの演出は、以前からやってみたかったんです。しかもお笑いの話であれば、僕がやる意味っていうのも、視聴者の方に納得してもらえるんじゃないかなと思って。せっかくやるなら、全話担当したいと伝えました」
劇中にはたくさんの芸人コンビが登場する。こだわったのは、漫才のシーンだ。
「ドラマや映画に出てくるお笑いのシーンって、見ているほうがちょっと照れ臭くなっちゃうようなのが多くないですか? そうならないレベルにしたいと考えました。芸人って、日頃テレビで見ていて正解を知っている分、いろんな職業のなかでも役者さんにとってはハードルが高いみたいです。ライブのシーンでは、まだ2~3年目くらいの太田プロの芸人に頼んでネタをやってもらったりしていますが、そんな子たちでさえ、芸人としてのたたずまいがしっかりしているんですよね。
あの感じを出すのは、役者さんでもなかなか難しいんだなというのは勉強になりました。現場で戸惑ったのは、『ボケた後ってどんな顔してるんですか』と質問されたとき。僕、お笑いの世界で26年やってきて、ボケるのが当たり前だから、そんなこと考えたこともなかった(笑)。
間宮さんと渡辺さんのお2人とは、最初は細かく話し合いましたが、中盤からは役が体に染み込んできたみたいで、すごくナチュラルに演じています。例えばマンガだと、1巻と10巻って同じキャラクターでもちょっとタッチが違ったりするじゃないですか。巻が進むごとになじんでくる、あの感じに近いです」
青春感を楽しんでほしい
「映画だと全部絵コンテを描くんですけど、ドラマは臨機応変に、現場でカット割りをしていくんですよね。後で編集でつないでいくので、編集所に入るまではどうなっているか分からない。そこはずいぶん違いますね。ほかにも、ドラマは放送時間が決まっているので、尺が難しい。思い入れがあるシーンでも、捨てていく作業を冷静にやらなくちゃいけない。
僕は海外ドラマが好きで、『24-TWENTY FOUR-』がブームになった約15年前からずっとはまっているんです。映画は大体2時間じゃないですか。海外ドラマの嫌になるぐらいの長い付き合いが、すごく羨ましくて。ずっと追っていると、本当にキャラクターが存在する感覚になるんですよ。それはドラマならではなので、自分でも『やってみたい』という思いが芽生えました。
この作品では、いろんな役者さんがお笑い芸人を演じているのが新鮮に映ると思います。『この人はうまいな』『この人はいまいちかも』とか、そこらへんも楽しんでもらっていいですよ。お笑いがテーマの割には、ネタ以外の部分はそれほどコミカルにはなっていないです。原作の世界観を大切に、高校生が無邪気にお笑いに向かっていく姿を描きましたので、その青春感を楽しんでほしいです」
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2019年8月号の記事を再構成]
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