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「研究室」に行ってみた。

まるで漫画「寄生獣」 ハリガネムシの恐るべき一生 神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉(2)

2019/8/16

「糸くずみたいな卵塊は、大体1カ月、2カ月ぐらいかけて卵の中でちっちゃなイモムシみたいなのものになるんですよ。そのイモムシは実はちょっと変わった性質を持っていて、体の先端にノコギリみたいなのが付いてるんです。そのノコギリを出し入れすることができるようになっていて、ふ化するとワラワラと川底で蠢きます。川の中のいろんな小さな有機物を吸い取ってエサにしている漉(こ)し取り食者っていうタイプの水生昆虫が、それを取り込むんです。取り込まれると、ノコギリで腸管の中をグズグズ掘り進んでいって、腹の中で『シスト』という状態になります。自分の体を折りたたんで、自分で殻をつくって、完全に眠ってしまうとマイナス30℃に冷凍しても死なない休眠状態です」

孵化後の幼生は、水生昆虫に取り込まれると“ノコギリ”で腸管を掘り進む。(写真提供:佐藤拓哉)
お腹の中でシストに変化する。殻をつくったシストが完全に休眠するとマイナス30℃でも死なない。(写真提供:佐藤拓哉)

水生昆虫の「漉(こ)し取り食者」の中には、カゲロウやユスリカといった、成長すると川から出て飛び立つ者もいる。

「春になると、ワーッと羽化して陸に飛んでいきますよね。おなかにシストを持ったまま陸域に飛んで、結構川の近くで死ぬんですね。渓流釣りする方とかだとよく見かけていると思います。そうするとカマドウマは森の中から夜な夜な出てきて、落ちている水生昆虫をいっぱい拾い食いしていくんです」

これでやっと、ハリガネムシがカマドウマまでたどり着いたことになる。

「今までの研究では、カマドウマみたいな陸域の消費者であっても、川の資源に依存して暮らしているというふうに言われてきました。でも、この場合は、実はそれは毒リンゴみたいな感じで、食べてしまうと寄生されて、2~3カ月の間におなかの中でヒモみたいにボワーッと成長して、下手すると30~40センチもの長さになっている。成長したハリガネムシは産卵したいわけですが、そのためには水に帰らなければならない。それで行動を操作するんです。脳にある種のタンパク質を注入すると言われています。それでカマドウマが飛び込むと、おしりからムニューっと脱出して、ぐるりと生活史が1周したことになりますね」

水生昆虫やら、カマドウマやら、様々な宿主を渡り歩いて、最終的には生活史をぐるりと1周回す。寄生虫の面目躍如(?)である。

ここで興味深いのは、やはりカマドウマに寄生した後で、水に帰る方法だ。行動を操作するというのだが、はたして何をしたらそんなことが可能なのだろう。

色の薄いほうが「バカッと開く」メスだ。

(2014年10月 ナショナルジオグラフィック日本版サイトから転載)

佐藤拓哉(さとう たくや)
1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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